平成11年5月3日(祝)〜10日(月)
街の映画館でふと取ったパンフレットが、僕を「三百人劇場」に通い詰めさせるようになってしまった。巣鴨から10分ほど歩いたこの千石に、その名のとおりちょうど300人収容の劇場が存在している。劇団「昴」の拠点劇場であるが、今回の目的は映画、しかも成瀬巳喜男監督作品である。成瀬監督の作品28本が短期集中的に上映されているのである。
成瀬監督は、小津、黒沢、溝口と並び賞される世界的巨匠である。僕と彼の作品とので会い、つまり僕が生まれた時には既に天逸していた彼が残した作品との出会いは、つい最近NHK−BS放映された「めし(昭和26年)」、「乱れる(昭和39年)」2作品である(今回の三百人劇場でのプログラムと連動しているのだろう)。何気なしに観て"いいなぁ"と思ってからしばらく後、ふと立ち寄った映画館の片隅にちょこんと、このパンフレットが置かれていたのであった。
「静と動の情動(エモーション)−成瀬巳喜男とマキノ雅弘」のタイトルで、成瀬巳喜男・マキノ雅弘作品約30本ずつを集中上映しているのだ。そして今日5月3日は、小林桂樹・草壁久四郎の特別対談が予定されているので、会場はほぼ満員になっている。成瀬と同時代を生きてきたと思われる中高年層から若い学生風の人達まで、一様に各世代から集まってきており、注目度の高さを感じさせられる。
成瀬作品は極めて自然、リアリティーである。短い会話の中に、目線に、そして間に"感情"の移り変わりが封じ込められている。そんなことは当たり前のことではあるが、夫婦三部作「めし」、「妻」、「夫婦」で描かれる世界は、素直に "美しい" と思えるのである。こんな時代、いやこんな時代だからこそこういう美しい作品が誕生したのではないかと考えさせられてしまう。 "昔のものは良かった" 的なノスタルジーが僕の心の中にあって、作品の評価を不当に高めてしまったのかもしれないが、そう感じてしまったのだから、仕方あるまい。
一方、彼の晩年の作品は "切れ味" がいい。「乱れる」、「女の中の他人」、そして遺作「乱れ雲」で見られるエンディングの切れ味である。絶対乗り越えることが不可能なタブーを打ち破った主人公二人が、結びつく寸前までいきながらそうはならない「乱れる」、「乱れ雲」は圧巻であり、成瀬監督の演出はあまりにも悲しすぎ、そして美しすぎる。どうやら、にわかファンの僕を含めたすべてが惹かれ離すことのできないなにかが、此処にはあるようだ。
※三百人劇場で観た成瀬映画(1999.04.24〜06.06)・・・静と動の情動
- 「夫婦」 (昭和28年/東宝) 上原謙、杉葉子、三国蓮太郎、小林桂樹他
- 「女の中にいる他人」 (昭和41年/東宝) 小林桂樹、新珠三千代、三橋達也他
- 「妻」 (昭和28年/東宝) 上原謙、高峰三枝子、丹阿弥谷津子、三国蓮太郎他
- 「放浪記」 (昭和37年/宝塚) 高峰秀子、宝田明、田中絹代他
- 「秋立ちぬ」 (昭和35年/東宝) 乙羽信子、大沢健三郎、藤原釜足他
- 「晩菊」 (昭和29年/東宝) 杉村春子、望月優子、細川ちか子他
- 「女が階段を上る時」 (昭和35年/東宝) 高峰秀子、森雅之、仲代達矢他
- 「乱れ雲」 (昭和42年/東宝) 司葉子、加山雄三、加藤大介他
- 「浮雲」 (昭和32年/東宝) 高峰秀子、森雅之他
※NHK−BSで観た成瀬映画
- 「めし」 (昭和26年/東宝) 上原謙、原節子、島崎雪子、小林桂樹他
- 「乱れる」 (昭和39年/東宝) 高峰秀子、加山雄三、草笛光子他
※三百人劇場で観た成瀬映画(1999.07.17〜08.06)・・・静と動の情動 アンコール
- 「稲妻」 (昭和27年/大映東京) 高峰秀子、浦辺粂子、香川京子他
- 「くちづけ」 (昭和30年/東宝) 青山京子、司葉子、高峰秀子他(オムニバス3話)
- 「妻の心」 (昭和31年/東宝) 高峰秀子、三船敏郎、小林桂樹他
- 「女の座」 (昭和37年/東宝) 高峰秀子、笠智衆、司葉子他
※銀座シネパトスで観た成瀬映画(1999.10.09〜11.05)
- 「驟雨」 (昭和31年/東宝) 原節子、佐野周二、小林桂樹他
- 「流れる」 (昭和31年/東宝) 山田五十鈴、田中絹代、高峰秀子他
- 「杏っ子」(昭和33年/東宝) 香川京子、山村聡、木村功他
- 「あらくれ」(昭和32年/東宝) 高峰秀子、上原謙、森雅之他
※成瀬巳喜男監督について:http://www01.u-page.so-net.ne.jp/bc4/nuage001/
1999.05.03〜10. Camera ( Minolta TC-1), Film ( Kodak GOLD 400)