平成11年2月11日(祝)

インテリア空間、新宿パークタワービル

 冷たい雨が降っている。天気予報のとおりに昼前から雨が落ちはじめてきた。この冷たさは、まちがいなくそのうち雪になるだろう。そんなことを頭に浮かべながら、コンビニで買ったビニル傘を風上へ突きだすようにしてワシントンホテルの前を通り過ぎる。ホテルの従業員たちが、この寒いなか屋外に出て車の誘導をやっている。僕は、彼らが寒さをこらえながら働く姿を横目で軽く見やり、角筈橋を渡る。もうすぐ目的地のパークタワーだ。今日は、このビルにあるリビングデザインセンター「OZONE」で開催されている暮らしの中の木の椅子展を観に来たのだ。こんな天気にここまでやってくる輩はそう多くはないだろうと思うと、ほんの少しだがこの寒さも薄らいでくるようだ。

パークタワー(エントランス1)パークタワー(エントランス2)

 ビルのエントランスに入る。外の厳しい寒さとはうって変わり、ビルの中はほっと溜息をついてしまうほどの暖かさだ。傘を畳んで中へ足を進めていく。するともうすでに芸術空間が広がっていた。巨大な吹き抜けの中に植えられている竹、天井から垂れ下がる幕。下から上に、上から下へとベクトルが走っている。そして斜めにどこまでも延びるエスカレーター、上下方向だけではない奥行きを感じさせるつくりだ。僕はそれに乗り、いっきに3階までシフトアップさせられた。

第一会場1 お目当ての展示会のみどころは、展示されている椅子に直に触れ座れることである。それゆえ、芸術作品でありながら家具としての価値も求められているのだ。普段こういった価値のある家具を使ったことがない自分ら大衆が、ホンモノと普及品の違いを確認できる数少ないチャンスである。まず最初にたどり着いた第一会場には、(エントランスとはまた別の)吹き抜けになっている空間に椅子が散りばめられていた。間仕切りに沿って一列になっていたり、中央で円を描いていたりしていて規則的になっているが、並べられている椅子それぞれは当然ながらどれとして同じものはなく、各作家のオリジナルである。そしてもちろん、そのすべてに座ることができるのだ。

第一会場2 端から順に並べてある椅子に座ってみることもできるのだが、人の目を気にしがちな僕はそういったことができないたちである。展示してある椅子を一通り見まわして、これというものをピックアップし、そのうち一つに座ってみることにした。それは、重厚な感じのする、肘おきが両方につけてある焦げ茶色の椅子だ。座ってみて僕は、すぐに驚かされてしまう。大地に根を張った樹のような安定感と森の中にいるようなやすらぎが、からだの中心に向かって走ったのである。すーっと体の力が抜けていくのがはっきりと伝わる。初めて座ったのに、もう何年も前から座り慣れているようなこの親しさ。これが芸術なんだ。まるで放心状態のように感服しきっている自分の姿は、まちがいなくまわりにいた人々には滑稽に見えているだろう。しかし、こういう感覚を共有できる椅子こそ本当の家具なんだと思う。こういう椅子を一脚だけでいいから購入したい。こういう椅子で本をゆっくり読んでみたい、そんなことを思わされた展示会であった。

第三会場(新宿パークタワービル:http://www.tgud.co.jp/parktower/ )


1999.02.11. Camera ( Minolta TC-1),  Film ( Kodak GOLD 400 )

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