BRUTUS に掲載

2001/9/15号


 spectateur des vin 
一杯飲んでもいいですか?

●文/  柳  忠之
●写真/ 菊地和男
 

 
 



 
 

湘南・藤沢にワインの穴場を「再」発見。
居酒屋らしからぬまっとうなリストに涙。

 いつものようにネットサーフィンをしていたら、懐かしい名前に出くわした。湘南・藤沢の<warakan>。5年前、藤沢駅のすぐそばにオープンしたワインバーで、開店直後に一度きり寄ったことがある。扉の横には赤ちょうちん。中華料理屋を改装した色気に乏しい店内も相変わらず。そもそも「仕事帰りのサラリーマンが、ウーロンハイと同じ感覚でワインを楽しんでくれたら」と、ワインの輸入元に勤めていた岡本さんが奥さんと一緒に始めた。したがって料理も、冷や奴、揚げ茄子、つくねん棒と、まるっきり居酒屋感覚で気取りがない。それでも5年の間に料理メニューは2倍となり、グリルしたサーモンのフレッシュハーブ風味や仔羊のローズマリー焼きなど、ワインとの相性がばっちりなメニューが増えている。
 居酒屋でグラン・ヴァンなんて、いかにもミスマッチなわけで、左下のグラフ通り上はシャトー・カルボーニュ'78の7.800円止まり。下は3ツ星シェフのジョルジュ・ブランが造るマコン、フルール・ダズネイ'98で2.400円とべらぼうに安い。シャトー・フュイッセのサン・ヴェラン'98が3.800円、ドメーヌ・ミュザールのサントネイ・プルミエ・クリュ・マラディエール'98が4.000円、シャンパンも正真正銘のシャンパーニュ・ルノーブルのNVが4.200円しかしない。なるほど、輸入元勤務の経験が長いだけに、安くてうまいワインの選択眼は超一流。コストの安い新世界ものへと安易に流れることなく、一般に割高感の強いフランスものからお値打ちワインを選び抜いているのは立派だ。土地代や人件費がいくら違おうと、並のマコンに10000円以上もとる六本木、西麻布界隈のぼったくりワインバーは大いに反省されたし!
 というわけで、蘊蓄好きなワインおたくはリストの厚みに満足できまいし、湘南系の熱いカップルはふたりきりの世界に入り込めそうにない。となると、この店にしっくり来るのは、やっぱりウーロンハイのコップをワイングラスに持ち替えたサラリーマンとなるわけだが、ワインリストの隅にルモワスネのブルゴーニュ・ブラン'89(6.000円)やフィエフ・ド・ラグランジュ'90(7.500円)を見つけてしまうと、何も知らない連中にこんないいワインを飲ますのが勿体なく感じられてくる。
 ちなみにこの店、昼はカレー屋さんだが、夜のメニューにカレーはなし。

 


「BRUTUS」2001/9/15 マガジンハウス社刊より転載させていただきました。