ぷれぜんと 〜燕と弥彦〜   
                        
 一月のある日の夜…。
「よっと…。これで最後だな。」
と,食器を重ねて置いた盆をもち,弥彦君は呟きました。
 赤べこで一番忙しい時間帯が過ぎました。本来なら、あるばいとする時間は過ぎていたのですが,そこは弥彦君。忙しく動き回るのをみかねて手伝っていたので、すっかり遅くなってしまいました。お店が終わり,ついでに片付けも手伝っていた彼が,最後の食器を運ぼうとすると,
「あ,弥彦君…それ,私が…。」
と,よこから燕ちゃんの声がかかりました。彼女はいいながら盆に手をかけましたが,弥彦君は首を降って,
「別にいーよ。これ最後だし,これお前には少し重いから。」
 ぶっきらぼうにそう言うと,すたすたと盆を持って奥へ歩いていってしまいます。燕ちゃんは急いで
「ありがとう…。」
と言いましたが,果たして彼には聞こえてるやら。
 盆を奥の調理場に持っていくと,
「あらあ,弥彦君。おおきに,後は私が持つよって。」
と,言いながら妙さんが歩いてきました。先程とは違い,素直に盆を渡すと弥彦君は
「ん。妙,俺そろそろ帰るな。また明日、よろしくな。」
と言いました。妙さんも,ニコニコ笑いながら、
「ほんまにこんな遅くまでてつどうてくれておおきに,弥彦君。あ,そうそう…」
ぽん,と手を打つと,妙さんはいろいろ食物が置いてあるところに行って何やらごそごそやっています。しばらく黙って見ていると,何やら一杯詰めた袋を両手に,妙さんが戻ってきました。
 弥彦君に片方の袋を持たすと,
「これ,知り合いの人からもらったんやけど,家では食べきれないさかい,もらってえな。」
と言います。                               
 手に持った感じではかなり重たく,不思議に思って中を覗くと、そこにはみかんがたくさんはいっていました。香りも同時にただよって,いい香りです。
「おっみかんじゃん!…でもこんなにもらっちゃっていいのかよ?」
と,問うと,妙さんは手をひらひらさせて言いました。
「気にせんといて。それに,さっきも言ったけど,ほんま家では食べきれないさかい、剣心さんと,薫ちゃんで食べてえな。それと…。」
 といいながら,妙さんはもう一つの袋を持ち上げて見せて,
「これは,燕ちゃんにわたしといてくれる?後,今日はご苦労様って。私,手が離せないよって…。」
 もう一つの袋を受け取りながら,弥彦君は
「ああ、いいぜ。じゃ,俺帰るわ。これ、ありがとな。」
「おおきに。ほな,お休み,弥彦君。」
「おやすみ!」
 そう言って,弥彦君は調理場を後にしました。
 店の方に行くと,燕ちゃんが帰り支度しております。弥彦君が,そばに行くと振り向いて,袋に目をやりました。
「あ,弥彦君…。?何,それ…。」
「ん?これ?みかんだってさ。妙がお前にって言ってたぜ。それと,今日はもういいってよ。」
「わあ…。こんなにいっぱい?本当にこんなに一杯もらっていいのかな?」
 袋の中を覗きこんでみて,思わず声を上げた燕ちゃん。けれど量を見てふと不安になったようで,弥彦君に同意を求めます。
「なんか,あいつんちじゃ食べきれねーとかって言ってたから、いいんじゃねえの?」
と,答える弥彦君。それを聞いた燕ちゃん,ホッとしたようで袋を受け取ろうとしますが,なぜか弥彦君は渡そうとしません。
「……?」
 不思議に思って弥彦君を見ると,弥彦君はついっと視線をそらして言いました。
「もう遅いだろ,おくってってやる。行くぞ。」
と,またまたぶっきらぼうに言ってそのまますたすた歩いて行ってしまいます。…照れているようです。きょとんとしていた燕ちゃん,不意に笑顔になって,
「うん!」
といって慌ててどんどん行こうとする弥彦君の後をついていきました…。
 
 次の日。
「ほら!まだ右の方があいてるわよ!」
 バシッ!
 薫さんに言われて注意を向けるひまなく、胴に打ちこまれてうずまくる弥彦君。
「ってーな!少しは手加減しろよ。薫!」
「隙があったから打ちこんだだけよ。いつもいってるでしょ!」
と、薫さんが涼しい顔で言い返します。…いつもの光景ですが、今日はなぜかいつも稽古を見ているはずの剣心さんがどこにもいません。一息ついて、汗を拭いていた薫さんもあたりを見まわし呟きました。
「全く、どこに行っちゃったのかしら、剣心。今日は買い物も頼んで無かった筈だけど…。」
と、そこに剣心さんが現れました。
「客人でござるよ、薫殿。」
 にこにこして笑って言います。ところが、それを聞いた弥彦君、途端に不機嫌になりました。どうやら稽古を邪魔された事に気分を害したようです。
「こんな時間からかぁ?全く、誰だよ。」
 ところが、なぜか剣心さんはその質問に答えず、薫さんを手招きして耳に囁きました。
「え、なに?……?え、つ――。」
「か、薫殿!しーー。」
と、慌てて何か言いかけた薫さんの口に手をやりました。…どうやら弥彦君には知られたくないようです。思わず赤くなった薫さんに気づかぬまま、今度は弥彦君に向かって言いました。
「弥彦、薫殿が用を済ますまで拙者がおぬしの相手をするから、勘弁するでござるよ。」
「…チェ、俺だけ仲間はずれかよ。ま、いいや。じゃ、剣心、早速相手頼むぜ!」
と言いながら壁にかけてある竹刀をとりに行く弥彦君。その間に薫さん、これ以上聞かれないようにする為でしょうか、道場をそっと出ていきます。弥彦の掛け声を後ろに聞きながら、薫さんは玄関に急ぎました。
 そこにいたのは、なんと燕ちゃんです。
「燕ちゃん。おはよう!どうしたの?」
 何か考え込んでいたのか、じっとうつむいてた燕ちゃんは、薫の声に顔を上げました。
「あ、薫さん、おはようございます…。こんな時間から、すいません。あ、もしかして稽古中でした…?」
と言う燕ちゃんに、薫さんは笑って答えました。
「ぜんぜんいいわよ。それに今、剣心が相手してくれてるから。あの子、その方が嬉しいのよ、失礼しちゃうわ、全く。…それより、どうしたの?」
 いぶかしげに尋ねる薫さん。ところが、燕ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
「…?え、ど、どうしたの?」
「あ、あの…。」
と、いつもよりもますますか細い声で言います。
「や、弥彦君の…。」
「弥彦?燕ちゃんあの子にようなの?剣心ったら、間違えたのかしら…。」
「い,いえそうじゃないんです!そうじゃなくて…。」
と、慌てて否定しながら、消え入りそうな小さい声で、燕ちゃんは言いました。
「あ、あの、弥彦君の誕生日、もう直ぐですよね…。それで、あの…。」
 言いきらないうちに、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった燕ちゃん…それをなんとも微笑ましいような感じで見ていた薫さんは、かがんで、燕ちゃんと目線をあわせて尋ねました。
「燕ちゃん、弥彦に何かプレゼントしようと思ってるんだ。」
「はい…。いつも、いろいろ助けてもらってますし…。でも、何がいいかわからなくて、それで、その…薫さんに相談に来たんです…。」
「そっか!」
 そういうと、薫さんは勢いよく立ち上がって言います。
「じゃ、ちょっと着替えてくるから待っててくれる?どっか甘味処へ行って何か食べながら話ししよっか」
「は、はい!」
 そうして、数分後、道場での喧騒を後にする二人がいました…。
 
 次の日、燕ちゃんは妙さんに頼まれて届け物をし、赤べこへの道をてくてくを歩いていました。なんだかあまり浮かない顔です。
(せっかく薫さんも一緒に考えてくれたのに…。)
 そう、彼女は弥彦君のプレゼントをいまだに決めていませんでした。あれから二人で甘味処へ行って考えたのですが、結局いい案は浮かばなかったのです。…とは言っても、結構2人とも食べる方に専念してたりします…。
 と、ふいに声が耳に入りました。
「燕ちゃん!」
 顔を上げると、そこにいたのは…薫さん、そして弥彦君でした。どうやら稽古がえりの様で、竹刀に胴着を入れてある袋ををひっかけています。
「あ…か、薫さん、弥彦くん!こんにちは!」
 慌ててぴょこっと頭を下げる燕ちゃんに、思わず微笑んだ薫さん、ふと気がついて燕ちゃんに耳打ちしました。
「ね、決まった?」
「それが…まだなんです…。」
 そう言って俯く燕ちゃん。かやの外にされていると気づいた弥彦君、またまた仏頂面しながら言いました。
「オイ、薫。燕と話してるんなら俺先行くぞ!」
「え?あ…ちょっと待ちなさいよ、弥彦!」
 そう言うと、薫さんはにっこり笑いました。何か思いついたようですが…弥彦君は何か感じたようで、一歩後ずさりしました。
「…な、なんだ?」
「それ持ってってあげるから、燕ちゃん送って上げなさいよ。そのまま赤べこにいれば、お仕事できるでしょ?」
 その言葉にびっくりしたのは燕ちゃん。慌てて
「か、薫さん!そんな…!」
と言いましたが、それをさえぎったのは他ならぬ弥彦君でした。
「本当か!やっりー!じゃ、これよろしくな!」
 そう言うと、さっさと自分の持っていた荷物を薫さんの前に置きました。…おや、少しだけ薫さんの顔、引きつっているようです…。その様子を見ていた燕ちゃん、薫さんに
「あの…それじゃ薫さんが…。」
と申し訳なさそうに言います。そんな燕ちゃんに薫さんは、そっと囁きました。
「…こうなったら、じかに聞いてみるのが一番よ。がんばって!」
「え?!か、薫さん!」
と言う燕ちゃんを後に、なんとか2人分の荷物を持って薫さんは歩き出しました。そう、燕ちゃんへの応援の気持ちと、少しだけ後悔の気持ちを持って。…少し歩いた後で、後悔なんて気持ちは笑顔に変わってしまいましたが…。
 一方、薫さんとわかれた燕ちゃんと弥彦君。無言で赤べこへの道を歩いていました。
(せっかく薫さんがくれたチャンスなんだから…が、がんばらなきゃ…。)
 そう思って、いざ!燕ちゃんが話しかけようとした時、聞こえたのは。
「ハックシュ!」
と言う声。
「大丈夫、弥彦くん?」
と、慌てて弥彦君を気遣って言います。が、彼はしまったと言うような顔をして、
「ん、誰か俺のこと噂してんじゃねーの?」
と、平気そうな顔をして言いますが、なんだか少し寒そうです。幾ら晴れているとはいえ、一月。しかも彼は稽古帰りです。なんだか燕ちゃんは申し訳なくなってしまいました。
「ごめんね、弥彦くん…。」
 思わずあやまると。帰ってきたのは怒ったような声と背中をぽんっとたたく手。
「なんでお前が謝るんだよ。いいから行くぞ!」
 そう言って、弥彦君はさっきよりも速く歩いていきました。
「は、はい!」
と言って、燕ちゃんも慌てて着いて行きました。そして。ふと頭に浮かんだことがありました…。
 
 数時間後、赤べこで燕ちゃんはあることを妙さんに聞いていました。
「…そうやねえ……だから…あれは……もし…。」
「……そうですか……でも……。」
 誰かに聞かれないようにしているようで、その声は決して大きくありません。さらに、店の中の喧騒も加わって、会話は断片的にしか弥彦君の耳に届きませんでした。
(なんだぁ、あいつらなにはなしてんだ、一体…。)
 疑問に思ったのは確かなのですが、忙しくてあまりに気にせずにいました。
「・……ですか?じゃあ……。」
 忙しい中、二人の会話はまだまだ続くようでした…。
 
 そして、一週間後…。
(気に入らない。)
 柱にもたれて縁側に座っていた弥彦君は、そう考えていました。それと言うのも最近、皆の態度がどうも変だからです。
 薫さんは、弥彦君の方を見て笑っているかと思うと、それに気づかれないように慌てて顔を引き締めたり…先日、だれかが訪ねてきてからの薫さんは、どうも変です。時々からかうような目で見てくるのもまた気になります。問い詰めたいのは山々ですが、そう言う時に限って剣心さんがいつも一緒にいてはぐらかしてしまうので、なかなか上手くいきません。
 そう、変と言えば最近の赤べこでも弥彦君は妙な疎外感を感じていました。このところ妙さんと燕ちゃんが2人でそっと話している光景が多いのです。それはいいのですが、弥彦が近づくと、ぱっと話すのを止めてしまうし、何より燕ちゃんが連日妙さんのとこに泊まっている事に疑問を持っていました。聞いても妙さんにはぐらかされてしまいます。
(薫や燕だけだったら絶対何とかして聞いてやるのに、剣心や妙が一緒にいるとどうも…。)
 年の割には鋭く、機転が利く弥彦君。が、彼が最強と思う剣心さんや、生粋の商人である妙さんにはまだかなわないようです。そう、日に日に弥彦君の不満は膨れ上がっていました。
 じ―っと考え込んでいると、ふいに暗くなりました。…見上げてみると、たった今まで考えていた剣心さんがそこにいます。いつものようににこにこ笑いながら弥彦君に話しかけました。
「どうしたでござるか、弥彦?」
「…別に。」
 ついついぶっきらぼうに返事してしまう弥彦君。隠し事されていることが不満だと、その声、態度にありありと表れています。
 それに気づいた剣心さん、苦笑いしながら弥彦君の隣に座りました。
「なにやら、不満があるようでござるな、弥彦。」
「別に…。」
 確かにそうなんですが、なんとなく言い当てられて悔しいのかぼそぼそと言って否定する弥彦君に、剣心さんは言いました。
「それならいいでござるが…。」
 そう言うと、剣心さんは黙ってしまいました。あえてなにも聞かなかったようですが、それが弥彦君にはまたカチンときたようで、思わず今までたまっていた不満と共に、きっと剣心さんを見据えて怒鳴ろうとしました。が、その前に
「おお、そうでござる!」
と言う剣心さんの突然の声にそれは阻まれてしまい、いっきに気がそがれてしまいます。おもいっきり脱力している弥彦を見て、剣心さんは不思議そうに声をかけました。
「おろ。どうしたでござる、弥彦?」
 なにも気づいてないような剣心さんに、弥彦は怒鳴って答えました。
「別に!なんでもねーよ!」
「おろろ…そうでござるか。ああ、そうだ。薫殿から言伝があるでござるよ。」
「?薫から?なんだそれ。いまいね―のか?」
「ああ、出かけているでござる。で、伝言でござるが…。確か、『ちょっと所用があって、弥彦にも来て欲しいの。だから、道場に行く時に通る橋に来なさい。』だったかな。」
「あ?なんだそれ。」
「さあ…ともかく、行けばわかると言っていたでござるよ、薫殿は。」
「ふ−ん…って今からか?」
「そうでござるな…ああ、そうそう、今からでござった。」
「わかった。じゃ、行ってくるな!」
 そう言うと、弥彦君はぴょんっと立って、玄関の方に走っていきました。慌てて剣心さんは後姿に向かって言いました。
「気をつけるでござるよ、弥彦!」
 そう言った声が聞こえたのか、手を上げて答える弥彦君。程なく、玄関から出て行く音が聞こえます。それを聞き届けた剣心さん、なぜかもう一度弥彦君が出ていったことを確かめました。そして、弥彦君が座っていたさらに向こう側に向かって声をかけました。
「もう出てきてもいいでござるよ、薫殿。」
 そう言った途端に顔をひょいっと出したのは薫さん。どうやら一部始終を聞いていたようです…。そーっとあたりをうかがいながら出てくる薫さんに対して、剣心さんは苦笑いしながら言いました。
「薫殿…もう弥彦は行ったから大丈夫でござるよ。それより…なぜ拙者が?薫殿が言ってもよかろうに。」
 そう言う剣心さんに対して、薫さんはばつが悪そうに答えました。
「だって剣心、私一人で弥彦と話したら、絶対何か問い詰めてくるに決まってるもの…。きっと私一人じゃ、すぐにぼろが出ちゃうだろうし…。」
「それはそうでござるが…」
と、先程の弥彦君の仏頂面を思い出して言いました。薫さんに隣に座るように示し、先程の弥彦君の顔と、薫さんの今までの弥彦君に対する態度が浮かんで、思わず言いました。
「それにしても、薫殿…あの態度はまずいでござるよ。あれでは弥彦が不機嫌になってもおかしくないでござる。」
 隣に座りながら、薫さんはおかしそうに答えました。
「だって、受け取る時の弥彦の顔思い浮かべたら…そうなっちゃうのよ、どうしても。一体どんな反応するのかしらねぇ、あの子ってば。」
「そうでござるなぁ…。」
 思わず頭の中に弥彦君の慌てたような顔が思い浮べて、剣心さんは笑ってしまいました。
「?なぁに、どうしたの、剣心?」
「いや…なんでもないでござるよ。それより…薫殿、お茶でもどうでござるか?いくら晴れているとはいえ、少し冷えるでござろう?」
「本当?じゃ、いただくわ。剣心も一緒でしょ?」
「そのつもりでござるよ。じゃ、拙者は台所に…。」
 そう言って立つ剣心さん。それを見ていた薫さん、ぽんっと手を打って
「あ、そうだ。いいお茶菓子があったの。一緒に食べましょう。」
と言って立ちあがり、剣心さんの後を追います。 
 そうして笑みを交し合って、台所に向かう2人がいました…。
 
 一方、弥彦君は急いで橋の上に来てみました。が、そこにはいるはずの薫さんが見当たりません。あたりをきょろきょろと見まわしていると、
「弥彦君。」
と弥彦君を呼ぶ声。振り返ると、そこにいたのは燕ちゃんでした。
「?なんだ、燕か。…ん?じゃ、俺に用って、お前の事?」
「う、うん。薫さんにお願いしたの。」
「ふ―ん…。」
 なんだか腑に落ちない顔で聞いている弥彦君。燕ちゃんはと言うと、とうとう意を決したようで、真っ赤になりながら言いだしました。小さな小さな声で、けれどはっきりと。
「あのね…いつも、助けてくれて…本当にありがとう。それで、その…お、お誕生日、おめでとう。弥彦君!」
 その言葉はありったけの心を込めて。そして、包んだ紙包みを前に差し出しました。
 驚きの余り声も出ない弥彦君。その言葉を聞いた途端、弥彦君も真っ赤になりました。そして、ここ数日の皆の不可解な行動の合点に、やっと納得がいきます。包みを受け取って開けて見ると、そこには見たことのある長い布が入っていました。いつか剣心さんが首に巻いていたもの…そう、マフラーです。
(…あったかそーだな…。)
 真っ先にそう思いました。よくよく見ると、所々にほつれた部分があります。それを見て、これは手作りなんだと気づきました。
(…ここんとこ結構、忙しかったのに。)
 本当に、本当に嬉しいけど、どうしたら言いかわからない弥彦君。何とかして伝えたくて、顔を真っ赤にして俯いている燕ちゃんの肩にぽんっと手を乗せて、ぼそっと言いました。
「…―――――。」
 たった一言、だけど万感の思いを込めて。
 それを聞いた燕ちゃん、ぽすんっと座り込んでしまいました。もちろん慌てたのは弥彦君。慌てて
「お、おい!どうしたんだよ!」
と話しかけますが、燕ちゃん、首を振るだけで答えようとしません。そのうちになんだかすごく嬉しくなって、泣き出してしまいました。
「おい、燕…。」
 橋の上には二つの影。そう、うれしくて泣いている少女、そして何とかして泣き止ませようとしている少年がそこにはいました。
『…ありがとな』
 一月の冬空はどこまでも澄んでいて、きれいな青空。今日もいい天気です…。
――ハッピーバースデー…
 Image photo
終わり


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