「不安」

「拙者は流浪人・・・また・・・流れるでござるよ・・・」
いや・・・剣心 行かないで・・・私を置いて行かないで・・・いや・・・
「いやぁーー!!」
悲鳴にも似た声をあげ、薫は目を覚ました。
「また・・・あの夢・・・」
剣心が京都に旅立つときの、薫に別れを告げたときの夢。
京都での死闘から、もうかなりの時間がたっているのに、忘れるコトができない。できるはずがない。
闘いが終わり、東京に帰ってきてから、平和に日々が過ごせるようになったのに、あのコトを思い出すと、その平和が壊されてしまうかのような気分になってしまう。
薫は、今すぐに剣心を一目でも見なければ、不安に押しつぶされてしまうような気がして、寝巻のまま剣心の部屋へ駆け出した。
剣心の部屋まで来て、襖を開けたが、そこには剣心の姿はなかった。
もう起きて、朝食の準備をしているのかと台所へ行ったがやはり居ない。薫の心に不安の波が押し寄せた。
――どこかへ出かけたの?こんな時間に?まさか・・・流浪に・・・――
最も考えたくないコトが薫の頭に浮かぶ。
底知れぬ、恐怖にも似た感情に、薫は玄関にへたりと座り込む。今にも泣き出してしまいそうになる。と、その時、玄関の戸が静かに開いた。
「・・・剣心・・・」
入ってきた人物の名を、薫はごく小さく呼んだ。
「・・・どこか言ってたの?」
「え、ああ、今朝はやけに早く目が覚めたものだから、ちょっと散歩に行っていたのでござるよ。それより薫殿、こんなところで何を・・・?」
薫は何も言わず、ふっと、剣心に抱きついた。
「か、薫殿?」「一人にしないで・・・」
剣心は、はと気がついた。薫の体が震えている・・・
「夢・・・見たの・・・剣心が京都に旅立つときの・・・目が覚めても、剣心がいなくなってしまうような気がして、怖くて・・・」
――自分が、この目の前の少女を不安にさせてしまっている・・・
こんなにも・・・――
「一人に・・・しないで・・・・・・」
薫の目からは涙がこぼれている。
剣心は、震える薫を強く、優しく抱きしめた。その中にある不安を取り除くかのように・・・
「絶対に一人にしない。約束する。だから、もう泣かないで・・・」
「・・・本当に?絶対?」
「ああ、だから笑って・・・」
そう言われて、ようやく薫は笑みを取り戻した。そして、もう一度剣心に強く抱きつき、頬に軽くチュッ、とキスをした。そして、少し頬を赤く染めながら、悪戯っぽく微笑い、「私、着替えてくるね。」と、自分の部屋へ描け戻っていった。
「おろ・・・」少し照れくさそうに、薫の後姿に微笑みを向ける剣心は、朝食をたかりにきた左之助が一部始終見ていたコトなどまったく気づいていなかった。もちろん薫も・・・


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