「それぞれの・・・」
ある冬の寒い日、剣心はいつものように朝食を作っていた。
もうすぐ出来ようかという時、剣心はちょっとした異変に気がついた。
「薫殿がまだ起きてこない・・・」
いつもならとっくに起きている時間なのに、今日に限ってまだ姿を見ない。
もう朝食もできてしまい、冷めるといけないので、薫を起こしに行く事にした。
「薫殿、薫殿。入るでござるよ。」
薫の部屋の戸をたたき、部屋に入ると、布団の中に薫の姿があった。が、様子がおかしい。
「!薫殿!?」
薫は顔が真っ赤で苦しそうにうわ言を言っている。額に触れてみると、思った通り、
いや思った以上に熱く、かなり熱が高いコトが分かる。
あわてて剣心は外へ飛び出し、小国診療所へ走った。
診療所の戸をドンドンと叩いていると、中から恵が出てきた。
「け、剣さん!?どうしたんです!?」
汗だくで髪も乱れ、肩で荒い息をしている剣心を見て、驚いて言った。
「か、薫殿!薫殿が熱を出して・・・!」
その慌て振りに、恵は、落ち着かせるように冷静に言った。
「分かりました。すぐ行きますから剣さんは先に行っててください。」
薬箱を取りに行きながら、恵は「剣さんがあんなに慌てたところ、初めて見たわ。それだけ薫ちゃんのコト・・・」と思い、フッと小さくため息をついて走り出した。
診察が終わり、恵は部屋から出ると、廊下にいた剣心に話しかけた。
「ただの風邪ですね。薬を飲んで、しっかり休めば大丈夫、すぐ良くなりますよ。食事は、お粥か何かを食べさせてあげてください。少しでもいいんで。」
恵はそれだけ言うと、すぐに帰っていった。
剣心は、薬を飲ませる前にと、お粥を作り始めた。
弥彦はもう起きていて、日課の朝稽古をしている。素振りでもやっているのだろう。
お粥ができて、剣心は薫の部屋に向かった。
中では、薫がやはり赤い顔をして眠っている。さっきより苦しさはましになっているようだが、まだ熱は高そうだ。
薫を起こそうと思ったが、せっかく落ち着いて眠っているのに起こすのは気が進まない。しかし、薬は絶対飲ませるようにと恵に言われた。
迷った末、剣心はひとつの行動に出た。
お粥を自分の口に含み、薫に口移しで食べさせた。
数口食べさせると、今度は薬を口移しで飲ませた。
薫はそれらを素直に飲み込んでいる。
――薫殿が起きたら、どんな顔をするか・・・――
そんなコトを考えながら、手拭いを水で絞って薫の額に置いた。
そして、部屋を出ようかと立ち上がったが、すぐにまた座り込んだ。
――もう少し・・・そばにいたい――
落ち着いた様子で眠っている薫を見て剣心は「愛おしい」と思った。
愛おしい。この人が、この人のすべてが・・・
スッと剣心は、自分の顔を薫の顔に近づけて行き、今度は何も口に含まずに唇を重ねた。
次の瞬間、自分のしたコトにハッっとし、顔を赤くしながらあわてて口を離した。
「薫殿は拙者のコト、どう思っているのでござろうな・・・」
つぶやきながら剣心は立ち上がった。そして、
「失礼致した。」と一言言い、部屋を後にした。
薫がうわ言で、ずっと剣心の名を呼んでいたコトを、剣心は知りもしなかった。