私の想いに、あなたは答えてくれました… 共に生きていこう…と あれから十年…辛いこと、悲しいこともありました でも、あなたとならばどんなことも乗り越えられます あなたと、そしてこの子の為に… 私は今、幸せです「…今年も見事だな」 舞い落ちる桜を眺めていた。 幾度となくこの地で、この場所で、この家で眺めていた風景。 飽きることのない四季の織りなす夢舞台。 …そういえば、あの頃の写真が… ふと立ち上がり、思い出の詰まった棚を探るとそれは現れた。 今と同じ季節に撮った一枚の写真…色褪せ、多少綻んではいるが大切な物。 「あれ?その写真どうしたの?」 快活な声が聞こえてきた。強い意志を持つ瞳と、張りのある声、そしてあの頃の彼女と同じ髪型。 その子は母親似であった。 さぞかし美しい娘になるだろう…親馬鹿と言われるだろうが。 「…これは昔、父さんと母さんが撮ったものだよ」 「へぇ…わぁ!二人とも……あんまり変わらないね」 「まぁ、十年前の物だからな」 「でも、母さんのこの表情…なんか嬉しそうだね。 父さんは…緊張してない?」 「写真なんて初めて撮ったから、勝手が分からなかったんだよ」 「ふ〜ん。?…ねぇ父さん。この頬の傷どうしたの?」 昔の俺を指さす。どうやら違いに気付いたようだ。 今は無いあの十字傷…人斬りの証。 「ん?…あぁ、それか。その傷は母さんが消してくれたんだ。 …魔法のようにね」 「??」 意味が解らず考え込む愛娘を楽しげに眺めながら、過去に思いを馳せる。 徐々に惹かれていったあの日々…再び失うことを恐れたあの日… 恐れていたことが現実となり絶望したあの日… 再び逢えたその時、強く誓った。二度と離さないと… 彼女と共に生きていくことを決意した。己の運命に抗ってでも… 探し求めていた答えが出たとき、頬の傷は消えていった…まるで祝福してくれるかのように… 「あの子、帰ってきたのかしら?」 道場生への稽古も終わり、一息入れようと居間に向かった。 戸を隔てて聞こえる楽しげな親子の会話。 私の愛する夫の声…その彼と育んできた愛娘の声… どちらも心地よい…そして自分にとってかけがえのない者達。 その温かな輪に加わるべく、戸を開け放った。手には三人分の湯飲みを持ち、母の顔で。 「…随分賑やかね」 「あ、母さん!これ見て!」 「…これは…あの時の?」 私の問いに彼は静かに微笑み、頷いてくれた。あの頃と変わらぬ表情で。 この十年…様々なことがあった… 「…懐かしいわね…」 「…あぁ、本当に…」 あの頃の記憶が蘇る…多分彼も同じ事を考えているのだろう… …共に歩んできた、道…そしてこれからも共に歩んでいく、道… ふ、と目が合った。 あの頃と変わらぬ優しげな彼の瞳… そして…幼い頃の自分を見るような我が子の瞳… 自分の選んだ道に間違いがなかったことを実感させる。 「…わぁっ、綺麗!」 愛娘の声に、二人は視線を外の風景に向けた。 春特有の風に抱かれ、桜の花びらが舞い踊る…花の精が天に帰るように。 皆その景色に見とれた…言葉もなく。 やがて何処から入り込んだのか、一枚の花びらがその写真の上に降り立った。 色褪せたその写真を蘇らせるように…鮮やかな色を添えて。君と共に生きていこう そう誓ったあの日…新たな力が沸き上がった 君とならばどんなことも乗り越えていける 君のために…この子のために… 幸せは人生の終に理解するという…だが俺は時に依らずとも言える 俺は今幸せだ、と明治二十二年…春。 …世の中は未だ維新時の混乱を残していた。 彼の思い描いた新時代とはかけ離れた力による政治が罷り通っていた。 この国は確実に迷走していた…破滅に向かって。 了