
かつて「長春」は満州国の首都で、新京と呼ばれていました。ミュージカル李香蘭 の中国公演は北京、長春、など4か所でしたから、李香蘭・山口淑子にもっとも縁の 深い長春で観ることにしました。市内をざっと眺めまわしても動物園と友誼商店(デ パート)以外は、

すべて「満州国」に縁の深い処ばかりのようです。偽満皇居(皇帝の 宮殿)、長春電影廠(満映撮影所)、党吉林省委員会(関東軍指令部)、そして満州 時代に作られた「路面電車」が、いまも健在で当時そのままに動いて市民の足になっ ているのです。

宿泊先のホテル「長白山賓館」は外国人観光客専用と聞いて安心して いたのが迂かつだったことに気づかされました。日本語を喋ってくれることまでは期 待しませんでしたが、ホテルの従業員に英語を喋る人もいないようです。ロビーのフ ロントで「李香蘭」と


どうやら彼等の言い分は「72才になる往年の名女優に会いた くても、住所か電話番号が判らなければ探しようがない。東方大劇院なんて長春には ない。」というもののようでした。ところが、とても親切そうには見えない紳士が近 寄ってきて、ゴム合羽の前合わせの間から懐に手を入れて、

引っぱり出したのは「日 本国四季劇団大型音楽劇李香蘭」の切符であり、そこに会場は「吉林省文化活動中心 大劇院」と書いてあります。急に元気づいた私たちはその切符を貸してもらい、水戸 黄門の印籠のように掲げて彼等を納得させました。

公演会場である「大劇院」に着くと、広い前庭ではバイクや三輪自動車から大型ク レーンを搭載したトラックまで展示されていて、カラフルな小旗がはためき、さなが ら工業博覧会のようでした。広場から会場入り口までけたたましい声で談笑する大勢 の人たちに占領されていて、あたりを見渡しても日本人は見当たらず、係員にも言葉 は通じません。

やっとのことでロビーに入ると扉の前に立つ案内係の女性はきらびや かなチャイナ・ドレスに白のカーディガン、黒と紺ばかりの群衆の中で一際美しく目 に飛び込んで来ます。座席につくと目の前は赤い夕日とコーリャン畑の脇に家路を急 ぐ牛と農夫を配した、馴染みある李香蘭のどん帳です。

客席の半分は報道陣かと思っ てしまいそうになるほど、堂々と三脚を立てて望遠レンズをつけた写真機が並んでい ます。上演中にストロボが発光することはありませんでしかが、カシャカシャとシャ ッター音はかなりのものでした。しかし彼等の話声もかなりのものでしたから、たい して気にならないのかも知れません。

どん帳が上がって開演となると、静かなざわ めきのようだった「話し声」は場面の展開と直結になり、語調が強く大声となったり、まったく静まりかえったりします。中国の人たちは感動をすぐに言葉にしなくては いられず、誰かと話さずにはいられないようです。

ミュージカル李香蘭「長春」公演では、李香蘭の中国人の義姉である「愛蓮」がも う一人の主役のようでした。 愛蓮が歌う中国語での「松花江上」には拍手の大喝采がまきおこりました。そして「 チュイパ」と一緒に歌う声が場内に響きわたりました。 チュイパとは、日本が中国東 北を侵略した日のことですから、複雑な思いで聴いていました。

帰路、北京で待って
いてくれた中国人の知人、留学中の日本人の友人、そして
その友達のオランダ人が、
李香蘭「北京」公演の感想を語ってくれました。私たち
が「リーシャンラン」と発音
していたら、彼等は「リコウラン」と発音しているので、爆笑してしまいました。
宇宙船地球号に乗り合わせた者どうし、互いに生まれた国を気にせずに、誰とでも自由に出会え集える世界を作り守って行きたいものです。
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