淀へやってきた。秋華賞を観にやってきた。ちょうど一年振りの淀。東京をホームトラックにしている僕にとって、一番好きな競馬場は、と聞かれたら迷わず府中と答えるが「では、最良の競馬場は?」と聞かれれば、それは淀と答える。東京と同じで、淀には「聖域」特有の空気がある。他の競馬場とは違う、日本でただ2ヶ所だけの、特別な競馬場。身が引き締まる思いだ。

今回も、前日入り。デイリー杯3歳を堪能するついでに、アウェイ戦に備えて下調べというわけだ。当日の朝まで降った雨の影響は少なくないようで、馬場はやや荒れ気味(最も、京都新聞杯当日のダメージが残っているというべきか)。レースもしばらくは前残り専門。午後に入ってやや馬場が乾いてくると、差し追い込みがちらほら台頭してくる。京都の醍醐味はこれだ。重厚な差し馬がしっかり力を発揮できる舞台。小手先の戦術より、実力が物を言う競馬場。デイリー杯も、その前のカシオペアSも、そう言った馬の独宴会となった。明日出走する馬で、これらの馬に該当する馬は? 当然一頭しかいない。桜の女王ファレノプシスだ。

そもそも、僕がわざわざ今回京都まで来たのは、ファレノプシスを観に来たと言う面が強い。今年は桜花賞、オークスと、幸運にも牝馬2冠を生で感染できた。そして3冠目も目の前で行われようとしている。じっくり目に焼き付けておこう。

とは言ったものの、実は私、当日の体調は最悪に輪をかけた状態であった。金曜日から寝ていない上、治ったと思っていた風邪が再発したらしく、目の焦点が定まらない(そう言う状況でも、遊びとなると気力を振り絞れるから不思議だ)。直前まで、途切れる意識を振りたてるために競馬場の中をさまよったり(傍目には只の夢遊病だ)、耐え切れず,児童公園の芝に横たわったり(傍目には只の浮浪者だ)。なんとかメイン前には気力を回復させた。いよいよ始まる。

馬券は以前から決めていた。ファレノと心中。ただ、直前まで迷っていたのが、単賞勝負にするか、エアデジャヴーとの連にするか。他の馬はどう贔屓目に見ても2枚は劣るので買う気がしない。ただ心配なのが鞍上。私はてっきり、ファレノ一番人気、僅差でデジャヴーだと思っていたのだが、どうやら逆転しているらしい。不可解なこともあったものだが。一番人気を背負った時の横山典弘、その安定感は新人以下。分かっていたはずなのだが、頭の中に入っていた風邪菌が思考力を奪ってゆく。配当はファレノの単で2.9倍、エアとの連なら4.1倍。そんな理由で馬連を五ケタ数買い込む。返す返す、冷静さを失っていた。

いよいよ本番。パドックでの気配はもちろんのこと、桜花賞のときと同じようにファレノプシスはお披露目でもするかのようにスタンド前を闊歩、そこから返してスタート地点へ向かう。これだけ気性の良い馬だとエネルギーをフルに爆発させられないものだが、ファレノはとにかく燃費の良いタイプのようだ。この時点でこっちは確実。エアデジャヴーも遜色ない出来だけに、もう馬券は当たったも同然だったのだが。

ゲートが開くと、エアデジャヴーが絶好のダッシュから先行集団の前に取りつく。完璧な位置どりだ。襟もエクセルがそれを見るように外目。更に外、後ろにファレノプシス。レースは淡々と進んでいく。秋華賞の場合、好言う展開だと上がりが結構かかる。2分1秒台の決着か? と時計を見ている間に、ファレノプシスと武はエリモエクセルの外からすーっと先団に加わっていく。動かない、いや動けないエリモエクセル。いくらオークス馬でも、実戦感を取り戻さずに戦えるほど楽なレースじゃないのだ。この時点でファレノより後ろの馬はもう脱落だ。前にいるのは、逃げるエガオヲミセテ、ショウナンハピネス。その後ろにエリモピュア。エアデジャヴー。ショウナンハピネスは故障したかのように、急にぎこちなくなり後退。エリモピュアも一杯だ。エアデジャヴーは内でじっとしている。それほど自信があるのか横山典。しかし案の定前が壁になり、外へ持ち出そうとしたときに、ファレノが横切っていく。完全に後手だ。誰の目にも分かる、騎乗ミス。慌てて手を動かし、外目へ出すエア。しかしファレノは既に先頭に踊り出ている。エガオヲミセテが一瞬外に膨らんだ瞬間に一頭突っ込んで来た。ナリタルナパークだ! あのペガサスの弟。しかしノーマークだった。当然だ、データ的には買えない。必至になるエアは漸くエンジンに点火。しかしもう趨勢は決まっている。ファレノの2冠だ。2着はナリタルナパーク。エガオヲミセテを辛うじて交わしたエアが3着……。

ファレノプシスの勝利は馬の地力の勝利であり、武豊の勝利でもある。前走、ローズSで測った脚。この馬は四コーナーから仕掛けても、末は鈍らない。それを分かっていて、なおかつG1の舞台で実践できるのが超一流騎手武豊。馬の力は全く互角、使える脚の質も互角。しかし馬の特性を理解していながら、実戦でそれを引き出せず、無様に負ける横山典弘騎手。まだリーディングの器には2つ3つ足りず。一番人気で勝てない騎手は騎手失格。もっと鍛錬せよ!

ナリタルナパークは前残り優勢の展開の中、直線一気に賭け、しかも一番狭いインでじっとしていた佐藤騎手の生んだ殊勲。人気薄の、しかも素質馬で一泡吹かせるのには絶対にして唯一の方法。馬の力はまだまだ劣るものの、これで今後も注目されることになるだろう。人気先行となるだろうが、いつか追い付いてくるだろう。エガオヲミセテは古馬と混ざってのレース経験が生きた。今までにない粘りを直線で見せ、あわや3着と言う場面。いや、坂のところでヨレなければ2着だったろう。人気外の上位組では一番強かった。5着バプティスタはマイペースを決めこんだ岡部騎手らしい着順。欲の無さが生んだ好結果。エリモエクセルは陣営がレースをなめすぎた。トライアルを使っていれば結果は違ったろう。レース前も後も感想は一緒だ。現四歳で抜けているのはファレノ、エリモ、エアの3頭。完成度と充実度で一歩先んじたファレノ。襟もエクセルも叩いて変わってくる。エアは屋根の心一つ。ファレノプシスはJCへ向かうここととなったが、次にこの3頭が顔を合わせるとき、1強となっていないことを願う。競ってこそ、更なる上の次元が開けるのだ。


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