Designer's note



「海蔵寺」ご紹介・本文で書けなかったこと



取材記事/写真参照 → 海 蔵 寺(かいぞうじ)

海蔵寺には、謎といわれる「十六の井」があることは今月の本文でご紹介しました。

本文内ではスペース的な制限があった為、記載しきれなかった取材記事が沢山あります。

今回のDesigner's noteでは、補足としてそのあたりにふれてみたいと思います。


岩窟の中に縦横四列ずつ並ぶ十六の井自然と湧水がたまり涸れることがない
いいます。この人工の岩窟はいったい何であったのでしょうか、またいつ頃できた
のでしょうか。たしかに十三・十四世紀に流行した横穴式墳墓の「やぐら」らしい
とも思え
ます。井戸がある点を除けば玄室にあたる部分は「やぐら」そのものです。

入口から玄室までの羨道(せんどう)とよばれる道路部分はここでは見られません
が、室町時代のやぐらには羨道がなくなってきているので、形式的にみてもやぐら
と判断してもおかしくありません。しかし、やぐらであるとすれば、納骨する場所
ですから十六の丸い穴は納骨穴ということになります。沖縄や奄美諸島などでは、
洗骨の習慣があったそうですが、水の中への納骨の話は聞いたことがありません
もし、あったとしてもそれを鎌倉地域で考えるのはやはりおかしいとも思えます。

海蔵寺略縁記」:(昭和52年7月発行)の中では当時の細井利禎住職も、
一部の歴史家は墓所ではないかとの説もあるが、そうでないと考えられることは
人間の情として、浅くそして相当の湧水のある中に埋葬するであろうか、ことに16
という数を限るとなると、尚更考えさせられる。
” とその指摘をされています。

密教の法具のひとつに酒水器散杖というのがあります。清浄な水に沈香・白檀・
丁子などの銘香を溶かした香水を入れる鋳銅器の容器が、酒水器。この香水を梅の
若枝でつくられた散杖を使ってそそぐことで心や身体を浄め、道場を浄めるわけで
すが、香水をつくるのに使用した水は、早朝に井戸水をくんで用いたといいます。

海蔵寺は最初真言宗だったから、こんなこともやっていた可能性は十分あります。
十六の井は香水の水を得る、聖なる場所であった可能性もあるわけです。

実際、十六の井には、これに似たようないい伝えが残っています。

「再中興開山が住世のとき、観世音菩薩が禅師の夢枕にたって、”来世の衆生信心
つたなくして身に難病をうけて定業を終えずして死す故に弘法大師に告げ金剛功徳
水を以て加持し此の水を授け薬を煎じてあたへれば、悪病ことごとくはらい除くこ
とが出来たのであるが、鎌倉数度の天災のためにこの井埋もれたりと禅師願くは此
の井を掘りだして掃除をなすならば、清水湧き出て再び霊験があらわれんと・・・・

と告げたという。禅師は教えの通り掘りだすと井戸が現れ、先述した観世音菩薩像
もでてきた。そして窟中の水を加持し衆生に与えたが、霊験あらたかであった。」
(「扇谷山海蔵略寺縁記」より)

古来、水には清浄の徳があるといわれています。

十六の井の水も金剛功徳水とよばれて、人々の心身を浄めていたのでしょう。
海蔵寺の伝えによると、この金剛功徳水には八種の特質効力があるといいます。
甘く、冷たく、軟らかく、軽く、洗浄、無臭、飲んで喉を損しない、飲んで患がない


また、十六もの井があることについては十六菩薩に捧げる閼伽(あか)、つまり功徳
水であると解釈
されています。十六菩薩とは、金剛、玉、愛、喜、宝、光、憧、笑、
法、利、目、語、業、護、牙、拳
の各菩薩のことだそうです。十六の数字というの
は、それなりに意味があるわけです。そういえば法衣の襞も十六だといいます。

いずれにしても、十六の井の謎が解明されたわけではありません。

そんな謎を残した鎌倉は、探訪しながら謎解きを楽しめる古都と言えましょう。


では、また来月お会いしましょうね。




[参考文献]

書 名
叢書名
著者・編集
出版社
「鎌倉謎とき散歩」 湯本和夫著廣済堂出版
「鎌倉 8」  山と渓谷社
「鎌倉・横浜」 あるっく社編集部山と渓谷社
「鎌倉・歴史の散歩道」:中世の香りを残す古都を歩く講談社カルチャーブックス安西篤子監修講談社
「鎌倉歴史散策」カラーブックス361 保育社
「秘宝のある寺<鎌倉>」カラーブックス785 保育社
「鎌倉の寺」カラーブックス821 保育社
「かながわの古道50選 : てくてくマップ」  神奈川県
「鎌倉散歩24コース」  山川出版社
「ひとり歩きの鎌倉」 新沼美津江著JTB
「鎌倉の古寺」:四季の花と仏像を訪ねてCan Books JTB
「鎌倉を歩こう」るるぶ98 JTB
「鎌倉を歩こう」るるぶ99 JTB
「小さな旅」各号 JR東日本
「あなたの街の新聞:鎌倉生活」各号 遊蟻舎
「鶴岡:つるおか」各号 鶴岡八幡宮
「呪術が動かした日本史」 武光 誠著青春出版社
「通勤電車で楽しむ日本史の本」 小和田哲男著三笠書房
「古都の風情がいまに残る:鎌倉の小径、うら路、かくれ道」  実業之日本社
「女人鎌倉:歴史を再発見する15の物語」 安西篤子著祥伝社
「三浦半島記」街道をゆく42司馬遼太郎著朝日新聞社
「学校では教えない歴史」 フリーランス歴史研究会コスモ出版
「鎌倉:四季の景」ブルーガイド情報版α002 実業之日本社
「鎌倉 湘南」マップル98:エリアマップ 昭文社
「新版 神奈川県の歴史散歩.下」新全国歴史散歩シリーズ14 山川出版社
「エッセー 鎌倉百景」 佐藤 繁著門土社
「写真家が足で探した:鎌倉の秘道.切通し・やぐら・花の寺」 中野正皓著日本写真企画
「南紀白浜:名勝古跡:三段壁洞窟」  三段壁洞窟観光
各社寺拝観時の配布パンフレット   



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