敦盛最期

一の谷の戦いの勝敗は、源氏の奇襲戦法により明らかであた。船上へと敗走する平氏、それを追う源氏 勢は次第に浜辺に集結しつつあり、武功を得んがために焦る武将が徘徊している。その中でいち早く駆 けつけたのが源氏の強者、熊谷次郎直実。直実は、逃げ遅れたのであろうか沖合いの船に向かって馬を 急がせる一騎の武者を見つけた。功にはやる直実は扇を翳して「戻りたまえ、卑怯にも敵に背を向ける とは平氏の大将たらんこと、いざ勝負なされよ」と呼びかけた。すると、鎧姿の武者はためらいをみせ ながらも手綱を返して波打ち際へと戻る。馬を捨てた二者は激しく組み討ち、戦った。だが直実は歴戦 の剛の者。平氏の武者を組み敷いた直実が、その首を掻こうと剥ぎ取った兜の中からあらわれ出でたの は、まだ年端も行かない幼顔。我が子小次郎と同じ年頃であろうか、複雑な思いが過った直実は逃がし てやりたいと思った。しかし若者は死を覚悟した様子で、しかも味方の軍兵は視界に入る辺りまでちか づいる。もはや逃げ切れまい、そして彼らはこの首に群がるであろう。直実は涙しながら、手にしてい る短刀に力を込めたのであた。この若武者が腰間に収めていた雅な笛から平敦盛であったことを知った 直実は、後に武士の身に疑問を感じて出家し、この戦いで亡くなった武人の霊を弔う旅に出たといわれ る。この鍔は、直実か沖の敦盛を呼び返す、有名な一場面を描いた作である。