





アナログシステム研究所 (NEWS RELEASE 4003)
#4003 温暖化現象は通貨危機を早める
一般の方の理解を助けるために要点を絞って書き直したものです。不明の点があればご指摘ください。
現在の通貨制度
石油・ドル本位制ということばを聞いたことがあるでしょうか? 石油が基軸通貨であるドルの価値を代表する、という経済を動かすための基本的な枠組みのことです。通貨価値の裏づけとなっていた金の量に限りがあったために、価値の基準が金から石油へとシフトしたことがありました。このドル・ショックと呼ばれる歴史的イベントで生まれた新しい通貨システムのことを、石油・ドル本位制と呼んでいるのです。1971年のことでした。(注1)
希少価値のある金の有限性から離れて、豊富な地下資源である石油が価値の新基準になったのでした。世界の経済はその後、金の絶対量を超えてはるかに大きく拡大して成長するようになりました。金融の裾野が広がったことから、市場規模の枠が外されただけでなく新興市場が多くの国で生まれるようになりました。今まで存在しなかった金融手段が開発され、資本に実体以上の価値を賦与するようにさえなったのです。金融派生商品いわゆるデリバティブという手法は、金の有限性という大枠が消えて市場が急拡大したことが原因となって誕生したものでした。
石油がもつ資源としての量的限界が、原油価格の高騰でいま改めて注目されようとしています。ドルの裏づけとなっていたものの価値は、かつて金がその有限性から行き詰ったことがあるように、石油もまたじわじわと追いつめられてゆくことになるでしょう。油田は最終的に枯渇してしまうものだからです。金を加工してもその価値は金のままで変わることはありません。しかし石油を加工してエネルギーを取り出した場合には、二酸化炭素へと変わってしまうのです。つまり、資源としてもっていた石油の価値が、温暖化をすすめる淘汰圧という有害な価値へと反転することになるという訳です。石油としての資源価値が消えてなくなってしまうだけでなく、地球を温暖化するというマイナスの価値さえ生み出していたのでした。
通貨危機の素地
日本は為替介入で米国の長期債をこれまで大量に買いこんできました。しかし、この方法では資本の循環がおきないという困った問題があったのです。アメリカにだけ長期間返済する必要のないドルという現金が集中し、その他の国では長期間にわたる資本の空洞化が引き起こされるという通貨調整のためのメカニズムができあがっていたのです。このメリットを最大化する目的でアメリカは、先進国(とりわけ貿易黒字国)の通貨に対してはドル安を、そうでない国の通貨に対してはドル高を誘導しています。このようにアメリカには二種類のドルのあることが知られています。日本の政府と財務省は円高になっている理由を未だ特定していませんが、アメリカはユーロがだぶつかせた余剰のドルの使い道を夙に承知していたものと思われます。
日本は急激な円高を回避するための対策として円を売って、国際経済の基盤となっていたドルを買うことで通貨価値を引き下げてきたのでした。石油という価値の裏づけのあるドルを介してアメリカの国債を買い、外国為替市場の安定化を図ってきたのです。30年物の米国債は発行の上限に達していましたが、今月(八月)初めに上院で増枠が認められ追加発行が解禁されています。この政策の変更は、戦費調達と為替の変動を円滑に吸収することが主な目的であろう思われます。アメリカ国内には本来、赤字国債を積み増す必然性はありませんでした。
(アメリカの財政赤字はブッシュ就任以前に黒字転換されており、赤字国債を追加発行する必要そのものはなかったのです。イラクの戦後処理が長引いていることから、クリントン政権から引き継いだ黒字だけでは足りず、国債を追加発行せざるを得なくなったのでした。この長期債は外貨準備高を確保する意味で各国の中央銀行が買い手となる可能性が高いものです。国債が勝手に売られてアメリカの長期金利を上昇させてしまうという懸念は低下するでしょう。現時点ではブッシュ政権にとって最も優れた政策であるかのように見受けられます)
通貨価値の調整が目的だというのは、将来ドルの需要が減ったときに余ったドルを吸収させておくための調整池を設けておく必要があったからです。円安が続いていれば、日本はドルをそれ以上に買い続けていなければなりません。ドル安を放任して通貨間にできた価値の落差を日本に吸収させることが、ドルの復元効果を実現する国債販売に繋がってゆくのでした。ドルの価値がこの先も下がり続けてゆくならば、日本がドルを買い増して米国債が更に売れるようになることをアメリカはよく承知しています。ドルが既に余っていることも、そしてそれがインフレに結びつくであろうことも、共に正しく認識することができています。日本にはこの間の消息(ドルの過剰流動性)に配慮した対策がまったくみられないのです。知っていて尚放置していたのなら、重大な反国家的行為だと言われても仕方ないでしょう。
日本が過剰流動性を吸収する調整池として使われていることがみえてきたでしょうか。日本が保有するドル資産(外貨準備)は、円安にならない限り市場に放出されることはありません(インフレ抑制効果)。長期債として運用されているため、償還期限がくるまでは何の問題もおこさない債務(日本から見ると債権)になっているのです。日本はアメリカにとってマコトに便利な存在になっていたのでした。アメリカが平時必要のない長期債の発行を再開したのは、ドルそのものの需要を高めて過剰流動性を「回収」する必要があったからです。その結果欧州でだぶついたドルを転用して円を買い、日本の資産だった所有権をアメリカへと移転させただけでなく、資金使途に制約のないドルが現金でアメリカ政府へと戻ってくるようになったのでした。つまり日本固有の財産を身代わりにしてアメリカの負債を引き受け(国債の購入)てきた、ということができるでしょう。表向きの理由はイラク戦争で消耗した国家財政を立て直すことにありましたが、事実上日本にそのツケを回せる回路を準備したということにもなる訳です。その結果、日本には長期間に亙る価値の空白が生じるようになったのでした。
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資本の回収と温暖化防止対策の実施
ドル資産そのものはアメリカ国内に留め置かれるため、利率がどんなに高くても日本へ戻ってくることはできません。何故ならアメリカに移転していた債権を日本へ移そうとすると、望まれない円高が再現することになってしまうからです。円安を誘導するための為替介入は、財務省の短期証券を通じて調達した資金で賄われ、日銀によって実施されています。財務省が借金してアメリカの国債を大量購入し、日本に戻ることのできない形だけのドル資産を積み上げてきたということになる訳です。国と地方の借金の合計は既に千兆円の大台を超えています。このうち為替介入で使われたと見られる短期証券の総額は90兆円台に達しています。円高になるたびに負債を増やしてゆくのは、円安誘導のためとはいえ健全な財政の姿であるとはいえません。大量のドル資産(注2)をもっている日本は、塩漬け状態になっているドルをもっと活用するべきだと思います。日本が困窮するその度合いに応じて、アメリカの懐具合は豊かになってゆくのです。
在外資産に占めるドルの比率が高くなり過ぎると、将来の通貨危機の際に大きなダメージを受けることになるでしょう。ドルは機軸通貨として世界中に広まっています。機軸通貨である以上、需要がある限り供給を続けなければなりません。つまり際限なくドル紙幣を発行するよう義務付けられているのでした。このためドルの需要そのものが減るような事態を迎えたとき、貨幣としての価値に大きな揺らぎが生じることになるのです。ドルの需要が減る要因として確認されているものとして、ユーロという人工の通貨圏の誕生(注3)を挙げることができます。ユーロ圏は今後拡大する方向で推移することが確実ですから、ドルの一部は為替市場で徐々に余らざるを得なくなるでしょう(95年の急激な円高は過剰流動性が日本へ集中的に向けられた結果であると思われます)。また、石油に代わる新エネルギーの普及も重要な要因になるはずです。石油の需要が減れば、ドルの需要も減らざるを得なくなるでしょう。こうして余ったドルが日本に集中することになっているのでした。長期的な円高傾向は今後より一層強まる傾向で推移することでしょう。
ピンチこそがチャンス
ドルの需要が減った時に真っ先に起きるのは、円高という現象です。市場にあふれたドルが貿易赤字の原因となっている国の通貨を目指して押し寄せてくるからです。円高になれば日本は為替介入を行って円安を誘導しなければなりません。円を売るにはドルを買う必要があるのです。買ったドルはアメリカの長期債へと流れてゆくことになっています。日本には資本の空洞化がおき、アメリカには現金のドルがすぐに還ってくる、という通貨を巡る仕組みが時と共に充実してゆくことになっているのでした。このドルはアメリカの外へでることはありません。日本がドル資産を売るチャンスは、円安になった時だけなのです。ドルを売って円を買えば為替が動くため、当初の円高のレベルが再現されてしまうことになっています。日本を為替介入へと追い込み、借金を強要して還ってきたドルでイラクに軍隊を長期駐留させていたという訳です。外貨準備を増加させて得た資本の空洞化とは、このような意味をもっていることなのでした。
政府は資本を有効に使ってエネルギー資源を確保しながら、円にとって望ましい通貨としての価値を安定的に維持していなければなりません。最大の債権国である日本の経済が低迷を続け、最大の債務国であるアメリカが一層繁栄しているのは一体なぜなのでしょう。財政赤字だけが太ってゆくというこの展開は、国の将来にとって危険信号の点灯であるという意味に相違ないのです。財政再建を図るには、増税以外にもまだいろいろな方法がたくさん残されているはずです。
ドルのままで海外資産を回収できないのであれば、別の方法を考えなければなりません。例えば嘗てフランスが金との兌換を要求して金本位制の弱点を衝いたことがあるように、日本はドルに変わり得る現物を輸入して外貨準備に備える、というようなことなどです。資本を物でヘッジしたその後で代替資源の普及に勤しめば、在外資産を保全しながら温暖化を止める役割を果たし、更に世界のリーダーにまでなることができるでしょう。現状を理解しなければ、将来を予測することはできません。問題が見えていないのなら、日本が手内職をしてコツコツ稼いだ銭でアメリカを遊蕩児に育てあげる、というこの図式を今後より一層拡大させることになるのです。
補足資料
(注1)
戦後の復興を統一的に効率よく進めるため、金とドルの価値を固定するという取り決めが1944年に行われています。この時決定した合意のことを、ブレトンウッズ体制といいます。金がより多くアメリカに集まっていたからです。この時決まった通貨制度が、金・ドル本位制と呼ばれているものでした。その後朝鮮戦争を経てイデオロギーを巡る対立が昂じ、軍備の増強が進んでいます。核武装、宇宙開発、ベトナム戦争などのための費用が、アメリカの財政を大きく圧迫するようになりました。冷戦の構造がアメリカから金を大量に流出させ、ドルの価値を揺るがしていたのです。アメリカの金保有高は、ニクソン大統領の頃には既に半分まで減っています。通貨価値の裏づけとなっていた金の50%がアメリカ国内から消え去っていたために、ドルの信用が大きく下落したのでした。そこで金・ドル本位制から石油・ドル本位制という新しい通貨制度が誕生することになりました。
(注2)
財務省短期証券の発行残高はおよそ90兆円規模、米国債となっている外貨準備高はおよそ7700億ドル規模だとされています。財務省短期証券は債務ですが、米国債などの証券は債権です。差額の殆どはドル預金と金の退蔵に充てられています。その合計は8月末の時点で8500億ドル弱となっていました。邦貨に換算すると国家予算の規模に相当するレベルです。
(注3)
ユーロが正式に(予備)稼動した1999年にユーロ経済圏の15の中央銀行とアメリカ及び日本、IMF、BISが金の取り扱い方を巡って会合を持ちました。ワシントン合意といわれるもので、金の流通に一定の制限を設けることが合議されています。ユーロ圏には世界の金の約38%が備蓄されています。この保有率の高さがユーロの価値を裏付けています。ユーロが誕生してからは、金の価値が再評価されるようになったのでした。
因みにアメリカの金保有率は25%、日本にはその約10分の1にも満たない2.3%の金しかありません。バブル崩壊後のデフレ不況が長く続く環境下で、無駄な公共投資を重ねて財政赤字を積み上げる一方の政策を続け、そして金の保有率もきわめて低いこの国の円という通貨が、90年以降なぜか大量に買われ続けているのです。円高の理由はドルが売り込まれているからであって、円の実力が上ったという訳でないことは明白でしょう。円の信任は一貫して低下し続けているのです。ファンダメンタルズを反映していないことは明らかです。ドルの市場シェアが下がって供給過剰な状態になったその因果の涯に、この円高基調が出現しているのです。経緯を承知していると、真実がより明確に見えてくるのではないでしょうか。
2005/08/29
Rev.2005/09/25