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第63回日本ダービーが終わった次の日に、
東京競馬場へ行きました。
東府中の駅を降りると、競馬場への道を歩く人もいなくて、
昨日の喧騒がうそのようです。
途中の八百屋さんで、りんごを2つ買いました。
もう季節外れなのでしょうか、りんごは店の片隅に
20個ほど置いてあります。
それでも、店の人は不思議そうな顔一つせずに、
袋に丁寧に入れてくれました。
馬頭観音から東京競馬場へは、陸橋があったのですが、
工事中でした。
ちょっと見ない間に、競馬場の周りも変わるものだなあ、
と思いながら北入場門へ向かって歩いていきます。
まぶしい日差しが木漏れ日に変わって、気分良く
入場門へついたら、入り口が閉ざされていました。
どこからか入れないものかと、木漏れ日の下を歩いていると、
競馬関係者の専用入り口がありました。
その門は、がらりと開いていて、時折人が出入りしています。
ここから入れないものかなあ、と思って、門の脇にある
警備室へ行きました。
髪の真っ白なおじさんがいたので、尋ねてみました。
「今日は競馬場には入れないのですか?」
すると、おじさんは競馬関係者か工事関係者と間違えたのか、
「どちらへ行かれるのですか?」
と聞いてきました。
ただの競馬好きは、競馬関係者でも工事関係者でもないので、
ひと工夫して、
「競馬博物館へ行きたいのですが」
と言いました。
背広を着ていて、ちょうど大きめのかばんを肩から
かけていたので、わざわざ来たんだろうなと思ったのでしょうか、
おじさんは、とても困ったような顔をして、
「今日は休場日なんで中に入れないんですよ」
と言いました。
競馬場に入れないと分かって、がっかりしました。
じゃあお願いしよう、と思い、警備室の受付台の上に
りんごの入った袋を置くと、
「これをトキノミノルのところに持っていってほしいのですが」
と言いました。
おじさんは、少し笑いながら、知らないような感じで
聞き返してきました。
「トキノミノル?」
「今日はトキノミノルのダービーの日だから」
あせって、一気に言いました。
りんごを手にとったおじさんは、相変わらず笑顔で、
別の警備員の人に、
「場内巡回の時に、これをトキノミノルの前に置いてきてくれ」
と言うと、とてもやさしそうな表情をしました。
木漏れ日の下、競馬場を取り囲む道を、うれしい気持ちで
一杯になりながら、歩いていました。
想像は勝手にふくらんでいきます。
「あのおじさん、トキノミノルを知っているんだ」
馬券を外したことも吹っ飛ぶくらい、気分良く歩いていました。
トキノミノルのいななきが聞こえてきそうな、木漏れ日の下を。
トキノミノル 10戦10勝。
昭和26年6月3日、第18回ダービー制覇。
昭和26年6月20日、破傷風で逝去。
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