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馬は自分に賭けられた夢を知っていたのかもしれない。
牧場や厩舎の人たちの、遠い夢を。
若者は自分の夢を叶えることしか考えていなかった。
一生懸命頑張ることしか頭になかった。
走破時間7分15秒8。
この馬と若者の夢がかなった瞬間だった。
若者は競馬学校を卒業した後、乗る馬すべてを勝たせようと、
ただひたすら馬を追った。
調教では調教師の指示通りに馬を作り上げることに一生懸命だった。
レースでは、たとえ結果が1着でなくても、どんなに遅れても
ゴール目指して馬を追った。
騎手になる前から抱いていた夢を実現するために。
馬は牧場で生まれ落ちたときから、1秒でも早く立ち上がって、
1秒でも速く走りたかった。
どんな天気でも牧場の中を駆け回り、青草をたくさん食べて、
歩幅も大きくなっていった。
子別れの寂しさにも、鞍を付けたり、人を乗せたりといった馴致も、
啼かずにじっと耐えた。
厳しい坂を駆け上がる調教にも挫けずに先頭を走り続けた。
牧場の人たちは、頑張ってこいと口々に言いながら、
三歳になった馬を乗せた馬運車を見送った。
夢を叶えてほしいと祈りながら・・・。
毎日毎日、朝も暗いうちから、調教に励む若者と馬の姿があった。
レースは勝ったり、勝てなかったりだった。
それでも、若者と馬は互いに訓練し合うかのように走った。
その日は雲一つなかった。
四歳になった馬の背には、立派な騎手に成長した若者の姿があった。
調教師も厩務員も何も言わなかった。
運がいいと良いね、夢が叶えばいいねと思いながら・・・。
大歓声に包まれながら、ゲートは開いた。
若者は馬をひたすら追った。
それに応えるかのように馬はひたすら走った。
最後の直線に入る手前で、馬はがくっとつまずいたようになった。
その拍子にハミが外れてしまった。
若者はとっさに馬にしがみついた。
馬は若者が落ちないようにゆっくりと止まった。
若者は馬から降りた。
馬には異常はないようだが、もうこれでは馬は追えない。
遠くから歓声が聞こえた。
若者は馬の手綱を持つと前を向いた。
馬はゴールの方向をじっと見ている。
「ゴールまで行こう」
夢を糧にして、想いを燃やすかのように、若者と馬は最後の直線を歩いた。
まっすぐに、ただゴールだけを見据えながら。
夢だったダービーのゴールへ向かって。
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