かきました
わたしの書いたものがたりです

 その日も、私は、いつものように暗闇の中を走っていました。
 行けども行けども暗闇で、私の眼には、たまに見えてくる
信号の光しか映りません。
 やがて明るい所へ出ると、私はひと休みできますが、
それもつかの間・・・
 また暗闇の中へと向かわねばなりませんでした。

 私は地下鉄の運転士です。
 狭い運転席に座って、ブレーキレバーを握りしめて、
じーっと暗闇を見つめていなければなりませんでした。
 地上と同じ暗闇でも、トンネルの中には、星も、風も、
何もありません。
 あるのは、どこまで続くのかわからないような暗闇ばかり・・・
 おまけに運転席もまっ暗で一人ぼっち・・・
 駅のあかりを見つけては、ほーっ、とひと息ついている、
そんなことのくり返しでした。

 仕事が終わって地上に出る時、私はまっ先に空を見上げます。
 都会の中とはいえ、晴れた日には、星がちらちら
まばたいているのが見えます。
 風がそよいでいる音が聞こえます。
 それらを感じながら、私はいつも思うのでした。
 「地上はいいなあ。星が見え、風の声が聞ける」
 だから仕事で地下へ入る時は、いつもゆううつな気持ちに
なっていました。

 ある日のこと。
 私は、いつものように、レバーを握りしめて暗闇の中を
走っていました。
 ふいに、ライトに照らされて舞っている白い葉っぱのようなものが
眼に入ってきました。
 「ちょうだ。でもどこから迷いこんだのだろうか」
 私はそう考えると同時に、電車の速度を落としました。
 そして、ゆっくり、ゆっくり、ちょうに近づいていきました。
 電車がちょうの眼の前に近づいた時、ちょうはうまい具合に、
開けてあった運転席の窓から中へ入ってきました。
 私は、
 「よし、うまくいったぞ」
と思いながら、運転席の窓を閉めました。
 私とちょうは、暗闇の中へ、また走りはじめました。

 終点についた時、私は大事そうに、ちょうを手に包んで、
地上へ出ました。
 空は、すみきっていて、満天の星空・・・
 私は、
 「さあ、地上だよ」
と言って、手を静かに開きました。
 ちょうは、ひらひらと舞うように、空へ向かって飛んでいきました。

 さて次の日のこと。
 私は、いつものように、暗闇へ向かって走っていました。
 「そういえば、昨日はちょうがいたなあ」
と思いながら走っていると、前方に光が見えてきました。
 「こんなところに駅があったっけ」
と思いながらも、私は電車の速度を落としました。
 光の中へ入ったとたん・・・
 そこは、一面のお花畑でした。
 私は、何が何だかわからなかったけれど、すごくうれしくなって、
電車を歩くくらいの速さで進めました。
 白い花が、あたり一面に咲き乱れています。
 やわらかな風が、静かに流れていきます。
 いつか、こんなところを走ってみたい、と思っていた風景でした。
 私は、楽しくて楽しくて、歌を歌いながら、ゆっくりと
電車を走らせました。
 そして、近くにあった白い花を一つ、窓から手を出して、
そっと胸ポケットにしまいこみました。
 すると、今度はあたり一面が暗くなり、たくさんの星が出てきて、
まばたきはじめました。
 風も、すずしげな風に変わりました。
 星は、すべて白くて、それらがまるで雪のように、
ふわりふわりと舞っています。
 しかも、一つ一つの星が、ありがとう、ありがとうと、
ささやいています。
 私は、あまりの美しさに、ぼーっと見とれていました。
 時の経つのも忘れて・・・

 その時、突然警笛が響きました。
 はっ、と我にかえると、反対側を電車がすれ違っていきました。
 私は、それらの光景が忘れられないまま、終点へ着きました。

 仕事を終えて制服の上着を脱いだ時、白いものがひらりと
床に落ちました。
 それは、ちょうの、小さな白い羽でした。


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