かきました
わたしの書いたものがたりです

 その日は、とても寒い日でした。
 もう、日も暮れかかろうとしています。
 まだ五つのけい子ちゃんは、小さな駅の待合室で、
一人ぽつんと座っていました。
 けい子ちゃんは、お母さんと二人暮らしでした。
 街へ働きに出ているお母さんを迎えに、駅まで来ていたのでした。
 列車は、なかなかやってきません。
 けい子ちゃんは、寒い待合室の中で、
 「さむいなあ、今日は」
と思いながら、手に息をいっしょうけんめいふきかけていました。

 駅のホームに灯りが、ぽっとともりました。
 「あっ、れっしゃ、くる」
 けい子ちゃんはそう思って、外を見ました。
 すると・・・
 ホームの灯りにてらされて、小さな、小さな氷の粒が、
そこらじゅうで舞っていたのです。
 「わあ、きれい」
 けい子ちゃんは、待合室から出ようとしました。
 「あたっても、いたくないのかなあ?きれいだけど・・・」
 そう思って、けい子ちゃんは、待合室から出るのを、
少しためらいました。
 けれど、氷の粒は、どんどんふえていきます。
 そして、それらが灯りにともされて、きらきら、
星のように輝いています。
 けい子ちゃんは、思い切って外へ出てみよう、と思いました。
 待合室からホームへ出た途端、けい子ちゃんは、
 「わあー・・・」
と、声を出して、はしゃぎだしました。
 氷の粒は、けい子ちゃんを囲むようにして、きらきら舞っていました。
 「まるで、お空の中にいるみたい」
 そう言って、けい子ちゃんは、くるくると回ってみたり、
氷の粒を追っかけてみたり、ホーム中をはしゃぎまわりました。
 少しつかれて、けい子ちゃんが立ち止まった時、
こんなうたが聞こえてきました。

  ぼくらは星の子
  わたしたちは空の子
  寒い寒い氷の国の子

  ぼくらは風にのっていく
  わたしたちは森で休んでいく
  小さな小さな氷の子

 そううたいながら、氷の粒は、なおも舞っています。
 けい子ちゃんは、そのうたをうたいながら、
しばらく氷の粒と遊んでいました。
 突然、氷の粒が、ビューと流れ出しました。
 列車が入ってきたのです。
 けい子ちゃんは思わず、
 「あっ、まって」
と言いながら、短いホームをかけ出しました。
 「つかまえなくっちゃ」
 けい子ちゃんは、とっさにそう思うと、流れおくれた氷の粒を
二、三こつかまえて、手の中に包みました。

 列車から、お母さんが降りてきました。
 「あら、今日も迎えに来てくれたの?」
 「うん」
 「その手の中に、何かいるの?」
 「うん」
 「なあに?」
 「ないしょ」
 「あらあら、よほど大事なものなのね」
 「うん、とっても」
 「さあ、早く帰りましょ、これからもっと寒くなるわよ」
 そう言って二人は、家路を急ぎました。

 家について、けい子ちゃんはお母さんにお願いしました。
 「ねえ、コップ一つちょうだい」
 「どうして?」
 「さっきつかまえたのを入れておきたいの」
 「いいわよ。それじゃ、逃げないように、コップを逆さまにして
  入れるといいわね」
 「うん」
 けい子ちゃんは、自分のベッドの枕元まで、お母さんにコップを
持ってきてもらいました。
 「じゃあ、お母さんが、一、二の三でコップをひっくりかえすから、
  けい子は、コップの下で両手、広げてね」
 「うん」
 「一、二の三」
 お母さんが、コップをひっくり返したと同時に、
けい子ちゃんはその下で、小さな手を広げました。
 コップの中では、小さな、小さな氷の粒が三つ、
ふわふわ舞いながら、部屋の灯りにてらされて、
きらきら光っていました。
 「あら、これ、ダイヤモンドダストじゃない?」
 「ちがうよ、氷の子よ」
 「でも変ねえ、家の中は外よりずっとあったかくてよ。
  ストーブもたいているのに、どうしてとけないのかしら」
 「だって星の子だもん」
 お母さんは変に思いながらも、
 「そうね、星の子だものね」
と、あいづちをうちました。
 そして、
 「さあ、ごはん食べましょ」
 「うん」
 そう言って、二人は夕ごはんを食べました。
 けい子ちゃんは、いつもより早く食べ終わりました。
 「きょうは、ずいぶん早く食べたわね」
 「だって、しんぱいだもん」
 「そうね」
 その日、けい子ちゃんは、テレビも見ないで、早々とベッドに入りました。

 けい子ちゃんは、ずーっとベッドの中で、氷の粒が
ふわふわ舞っているのを見ていました。
 月の光が部屋の中にさしこんで、その光に照らされて、
氷の粒が、きらきらと光っています。
 「きれいだなあ」
 けい子ちゃんは、コップの中できらきら舞う氷の粒を見ながら、
いつしか眠ってしまいました。

 三人いないよ
 三人いない

 けい子ちゃんは、窓の外からきこえてくるうた声で、目をさましました。

 三人いないよ
 三人いない

 ぼくらの友だち
 わたしたちの友だち

 どこへいったんだろう
 どこへかくれたのかしら

 「だれかいなくなったのかしら?」
 けい子ちゃんは、不思議そうに窓の方を見ました。
 そこには、たくさんの氷の粒が、心配そうにうたいながら、
あっちこっちへと舞っていました。
 「三人って、ひょっとして、このコップの中の氷の子のことかしら?」
 けい子ちゃんがそう思っている間にも、窓の外では、
たくさんの氷の粒がうたっています。

 三人いないよ
 三人いない

 ぼくらの友だち
 わたしたちの友だち

 どこへいったんだろう
 どこへかくれたのかしら

 けい子ちゃんは洋服をたくさん着て、おそるおそる窓を少しあけました。
 ヒュー、と冷たい風。
 その風にのって、たくさんの氷の粒が、部屋の中いっぱいに入ってきました。
 暗い部屋の中で、きらきらと月の光を浴びて舞っているたくさんの氷の粒。
 すると、うたが変わりました。

 三人いたよ
 三人いたわ

 ここにいたよ
 ここにいたわ

 早くもどっておいでよ
 早くいっしょになろうよ

 「この氷の子たちのことだわ」
 けい子ちゃんはそう思うと、コップの中の氷の子が
急にかわいそうになりました。
 「ごめんなさい、とってしまって。だってとってもきれいだったから」
 そう言って、けい子ちゃんはコップをそっと持ち上げました。
 三つの氷の粒は、うれしそうに舞いながら、たくさんの氷の粒と
いっしょにうたいました。

 ぼくらは友だち
 わたしたちは友だち

 いつでも来るよ
 いつでも会えるわ

 また遊ぼうよ
 また遊びましょう

 「うん、また遊ぼ。もうつかまえたりしないから」
 すると、たくさんの氷の粒は、いっそう、きらきらと光りながら、
踊るように、窓の外へ舞って行きました。
 けい子ちゃんは、氷の子が出ていくのを見送ると、
窓を閉めてベッドに戻りました。

 次の日、けい子ちゃんは、お母さんにコップをもっていきました。
 「あら、やっぱりとけちゃったの?」
 「ううん、みんながさがしにきたから、にがしたの。
  でも、また遊んでくれるって」
 「そう、また会えるといいわね」
 「うん」
 けい子ちゃんは、うれしそうにうなづきました。

 今日も、とっても寒い日。
 でも、けい子ちゃんには、とてもあたたかい日になりそうです。
 だって、友だちに、氷の子に会えるから・・・


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