かきました
わたしの書いたものがたりです

 大きな街の真ん中で、緑の屋根を持っている家。
 そこは、小さな植物園。
 土の大地が顔をのぞかせています。
 木々が、寄り添いながら、枝葉を伸ばしています。
 聞こえるのは、鳥のさえずりと、風の声だけです。

 ある日のこと。
 植物園の事務所で、会議が行われていました。
 その会議は、植物園の景色を良くするために、
園内の一角にある森の木を切ろうというものでした。
 会議は、長い時間続きました。
 どの木を切るかが決まった頃には、夜も更けていました。

 数日後。
 静かなはずの植物園から、電気のこぎりの音が、
街中に響きわたりました。

 次の日。
 植物園を訪れた人々は、森に残された木の切り株に座ったり、
年輪を見たりしていました。
 そして口々に言うのでした。
 「自然をうまく利用しているよ」
 「年輪なんかめったに見られないからね」
 「切り株の椅子って、いいものね」

 日も暮れかかろうとしている頃。
 閉園まぎわになって、植物園の入口に少女が走ってきました。
 「まだ、大丈夫?」
 入口にいた職員は、言いました。
 「ああ、いいよ。それにしても、よく来るね」
 「ええ、ここ、静かだし、木々や草花が楽しめるから」
 入場券を渡しながら、職員は言いました。
 「そうだ、森へ行ってごらん。木の切り株が見られるよ」
 「切り株?」
 「森の見栄えを良くするために、木を切ったんだよ」
 「えっ、木を切ったの・・・」
 少女は、入場券をもらうことも忘れて、一目散に森へ
走って行きました。

 夕日が映える森。
 少女は、木の切り株を、ただぼうぜんと見つめていました。
 やがて、耐え切れなくなったのでしょうか、少女は木の切り株に
しがみついて、泣き出しました。
 「かわいそうに・・・」
 少女の頬を、涙がとめどなく流れています。
 「もう、お日さまの光も受け止められない。風や、
  鳥たちと語り合うこともできない。花を咲かせることも、
  種を残すことも・・・。もう何もできない」

 日も暮れて、夜の闇を抱き込み始めた森。
 少女は、木の切り株に、背中をもたれるようにして、
土の上に座っていました。
 ゆっくりと空を見上げると、まわりの木々の枝葉が、
次々と眼に入ってきます。
 「どうして、この木が切られなければいけなかったの?」
 少女は、風に揺れる他の木々の枝葉を見ながら、
理不尽な気持ちになってきました。
 「森の見栄えを良くするためなら、簡単に木を切って
  しまってもいいのだろうか?」
 そう思うと、少女は、背中に触れている、切り株だけに
なってしまった木が、きゅうにいとおしく感じられてきました。
 「感覚も、望みも、もう持てないのね・・・」
 少女は、まだ木のみずみずしさの残っている木の切り株の
切り口に触れながら言いました。
 「私があなたに、望みをあげられればいいのにね・・・」

 次の日。
 植物園の職員は、森に集まって、驚いていました。
 「木が、元通りに戻っている」

 同じ頃。
 少女は、自分の部屋で、学校へ行く準備をしていましたが、
様子が変でした。
 「調子が悪いなあ、頭痛はするし、身体中がだるい感じがする・・・」

 それからと言うものの、少女の身体の具合は、
悪くなる一方でした。
 はじめは、ただの風邪くらいに思っていた少女も、思うように
身体が動かなくなってくるにつれ、不安になってきました。
 病院で診てもらっても、原因が分かりません。
 だんだんと、日常生活に支障をきたし始めました。
 それにつられて、少女は、自分が今までとは違うように
見られていることに気付きました。 
 友だちも、いなくなってきました。
 やがて入院させられた少女の心には、もう希望はなくなっていました。

 一年後。
 少女は、病院の看護婦さんに連れられて、植物園に来ました。
 職員の人も、一緒について歩いていました。
 森まで来たとき、少女は、ふと立ち止まると、一本の木に触れました。
 その瞬間、感情も、希望も失っていたはずの少女の眼から、
大粒の涙がこぼれ始めました。
 「良かったね、望みを取り戻して・・・」
 少女の表情に、明るさが戻ってきました。
 木々も、祝福するかのように、枝葉を風になびかせて、
拍手をしているようです。

 数年後。
 少女は、植物園の職員になりました。
 仕事はとても忙しいのですが、森へ行くと、毎日同じように、
木に触れながら言うのでした。
 「みんなが、お互いに分かりあえるようになれればいいのにね」


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