かきました
わたしの書いたものがたりです

 人はどこかへ行くときには、必ず何か履きます。
 ある人は流行の靴でしょうし、ある人は「粋」な
草履かも知れません。
 でも、いつからか人は何かを履かなければ、
外を歩けなくなってしまいました。
 何かに縛られているかのように・・・。

 あるところに、馬を育成している牧場がありました。
 馬の手入れをしている若者は、自分の育てた馬が
大きなレースをとるようにと馬を一生懸命世話しました。
 毎日、飼い葉をきちんと与え、馬場内での引き運動、
さらには小さいながらも一周できるコースでの乗り込みと、
それは大変な努力をしました。
 でも、若者の育てた馬は、レースに勝つことはできませんでした。
 それどころか、だんだん馬の買い手もつかなくなるようになりました。
 若者は悩み始めました。
 前にも増して、研究をし、入念に馬の手入れや調教を行いました。
 しかし、若者の育てた馬は、買い手どころか、見向きもされなく
なってしまいました。
 若者はもう疲れ果てて、馬を育てる情熱を失いかけていました。
 「おれには馬を育てる才能がなかったんだ」
 失望した若者は、だんだんと酒をあおるようになっていきました。

 そんなある日。
 若者がふらふらと酔いながら、牧場までの道を歩いていると、
道ばたの草むらでもそもそと動いている、まりのような動物を
見つけました。
 「おや、ありゃ何だ?」
 近寄って見ると、それは野うさぎでした。
 車にでもはねられたのでしょうか、うさぎは怪我をしています。
 「こりゃ、かわいそうに。歩けないんだな」
 若者は、うさぎを抱きかかえると自分の牧場まで連れて行き、
うさぎの怪我の治療をしました。
 馬の世話をしているくらいですから、うさぎの治療もうまく
いきました。
 治療を終えると、若者は馬房のすみに小さなわらの寝床を作り、
うさぎを寝かせました。
 うさぎは、若者をじっと見つめたままです。
 「だいじょうぶだよ、じき怪我も直るから今日はここでおやすみ」
 そう言うと若者はうさぎをなでながら、自分もそのそばに
寝転がりました。
 そして、いつしか若者は、うさぎといっしょに眠ってしまいました。

 「いない、いないぞ」
 若者は、真っ青な顔をして馬房を見つめていました。
 馬が一頭もいなくなっているのです。
 「ああ、これでおれの牧場も終わりだ」
 若者は頭を抱えながら、寝藁の上に座り込みました。
 ふと見ると、うさぎもいません。
 「うさぎにまで見放されたか」
 ため息をつく若者に、わらの上に置かれた一通の手紙が
眼に入りました。
 「何だ、これは」
 若者は手紙を読んでみました。

 「やさしいおにいさんへ
  生きとし生けるものは、みんな足で大地とお話するのです。
  それは、馬でも人でも同じです。
  馬だって草木の生えている大地が好きだし、大地だって
  素足で語りかけながら走る馬が好きなんです。
  しばらく馬を連れて走ってきます。
  必ず馬は戻ってきますので、心配しないで下さい」

 若者は手紙を読み終えると、急いで馬房の中をのぞきました。
 そこには手紙の通り、馬の蹄鉄が四つ、きちんと置いてありました。
 「あのうさぎが、馬を連れて行ったんだ」

 夕方、若者が馬房の掃除をしているところへ、馬が戻ってきました。
 戻ってきた馬を見た瞬間、若者はうなってしまいました。
 「なんてすごい馬になったんだ」
 若者は、馬の手入れをしながら、何か忘れかけていたものを
取り戻した気持ちになりました。
 「そうか、大地とのつながりか・・・」

 その後、若者の育てた馬は、幾つもの大きなレースを勝ちました。
 馬の頭数も増えて、忙しい日々を送っています。
 でも、若者は時々、素足で牧場の中をのんびりと歩き回っています。
 大地へ何か語りかけるかのように・・・。


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