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時計。
それは子供だったら誰もが持っている心の中のメロディ。
そのメロディを失ったとき、子供は「大人」になってしまうのです。
「時計」という「もの」を持たなければならない「大人」に・・・。
「急がないと遅刻しちゃう」
私は、会社までの道を、息を切らしながら走っています。
腕時計を見ながら、競争をしているようでした。
「何でこんなに時間に追われなきゃならないんだ」
やっとたどりついた机の前で、私はぐったりしながら、
いやになっていました。
そんなことが続いたある日。
私は、あわてていたせいでしょうか、腕時計を忘れてしまいました。
「これじゃ、間に合うかどうかわからないよ」
不安にかられながらも、私は駅までの道を急ぎました。
あちこち街中を見ながら、時計をさがしながら。
そんなことをしている私に、不意に、
「まだ、だいじょうぶ」
という声が聞こえてきました。
私が思わず立ち止まると、どこから現れたのでしょうか、
目の前に、小さな少女が立っていました。
そして、
「だいじょうぶだから、ゆっくり歩きましょ」
と言うと、私の前をとことこ歩き始めたのです。
「時計、持っているの? いま何時か教えてくれるかなあ」
私が少女にたずねると、少女は、
「もってるよ、でも何時かは知らないけど」
と言ったのです。
私は、きっとこの子は時計の見方を知らないんだな、と思い、
「時計、見せてくれるかなあ」
と頼むと、少女は、
「はい」
と言って立ち止まると、振り向いて、私の方をじーっと見ているのです。
「はいって、えっ?」
「時計、みえないの?」
困惑している私を、少女はしばらく見ていましたが、きゅうに、
「じゃあ、あたしがおにいさんの時計のかわりをしてあげる」
と言い出したのです。
「でも、会社についてこられても困るから」
「だいじょうぶよ。それより、そろそろ急いだ方がいいかも」
と言うやいなや、少女は私の前を歩き始めたのです。
私は、半信半疑でしたが、少女の後ろを歩き始めました。
その日一日、私は自分でもびっくりするくらい、のんびりと
仕事をすることができました。
まわりの人には見えない少女が、私にあれこれと行動のタイミングを
教えてくれたのです。
そのおかげでしょうか、何となく私の心の中に、ゆとりのようなものが
生まれたような気がしました。
仕事が終わっても、私は少女と一緒に帰り道を歩いていました。
私は、少女の後ろを歩きながら言いました。
「今日は、何か気分よく過ごせたような気がするよ」
すると、少女は、私の方を向いて手を握ると、
「これで、おにいさんも、時計を取り戻せたね」
と言うと、すーっと目の前から消えました。
私は、ぼうぜんとしながらも、少女のぬくもりの残る手を見つめて、
にこっとわらいました。
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