かきました
わたしの書いたものがたりです

 ちょっと前まで、人が、自分の声や、文字以外で
いろいろな生き物と会話する方法を知っていたころの
お話をしましょう。

 「あっ、バスだ」
 学校からの帰り道を歩いている子供たちは、後ろから
近づいてくる砂利の跳ねる音と砂煙に気づくと、ぴょんと
飛び跳ねるようにして、田んぼの畦道へと移りました。
 「きょうは、こっちの道から帰ろうか」
 だれが言うわけでもありませんが、子供たちは、田んぼの
畦道を歩き始めました。

 「じゃあね」
 「あしたね」
 そう言いながら、子供たちはひとり、またひとりとさらに
細い畦道へと別れていきます。

 緑の稲穂がだいだい色に染まり出し始めました。
 畦道を少し離れて歩き続けているのは、少年と少女だけ。
 ふたりきりになってからと言うものの、会話はしているのですが、
どうもしっくりきません。
 「会話はしたいけど、途切れた時の寂しさ」を知っている
せいでしょうか、お互いに話はするものの、会話として続いて
いないような感じでした。

 虫が鳴き始めました。
 その音を聞きながら歩いていた少年は、ふと立ち止まると、
近くの草の葉っぱを、そっと取ると、草笛を吹き始めました。
 虫は耳をすまして聞いています。
 少年が草笛を吹き終わると、また虫の声が聞こえてきました。
 少女は、冗談めかして、
 「まるで虫とお話しているみたいね」
と言いました。
 すると、少年は、少女に向かって、指を口に当てて、
 「しーっ」
と言いながら、静かにうなずきました。
 虫の声が止んだとき、少女は、驚いたように言いました。
 「ほんとなの?」
 「うん」
 「あたしにも聞こえるかしら?」
 少年は、困ったような表情をしながら、
 「聞こえるよ」
と言うと、草の葉っぱを少女に手渡しました。
 少女は、うれしそうに草笛を吹き始めました。

 虫の声を聞き終えたふたりは、何も言わずに歩き始めました。
 しっかりと手をつないで・・・。


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