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一本の道。
多少だが、盛り土がされている。
普通の道路とも違う。
あぜ道でもない。
でも、砂利が敷き詰められている道。
久しぶりに田舎に向かう私は、その道を、てくてくと歩いていた。
JRの駅からバスに乗り、バスの停留所から実家まで行く近道だから。
実家のそばまで来ると、少し道幅が広くなっているところがある。
「まだ置いてある」
道の隅のほうに、木でできた長椅子が置いてあった。
私は、長椅子に座って、しばらく休んだ。
それが、田舎に来たときの、私の楽しみの一つ。
まだ小学校に入る前までは、ここを列車が走っていた。
小さな蒸気機関車が、マッチ箱のような小さな車両を、のんびりと引き
連れて走っていた。
幼い私ですら、狭いと感じたくらいの列車だったが、いつ乗っても車内は
賑わっていた。
実家のそばの駅で降りると、おじいさんが、いつも木の長椅子に座っていた。
列車が走っているときには、そんなに気にも止めていなかった。
小学校に入ってすぐ、列車は廃止になった。
仲良く伸びていた二本の線路は、すぐに取り払われた。
残された路床には、線路のあとがくっきりと残っていた。
ある日のこと。
線路の跡をたどって歩いていると、駅だったところに置き去りにされた
長椅子に、おじいさんが座っているのに気付いた。
列車が走っていたころと同じように。
私は、おじいさんの横に座った。
「毎日、ここに座っているの?」
「そうだよ」
「列車、走っていないのに?」
「ああ、そうだよ」
「どうして?」
私が聞くと、おじいさんは、遠くを見ながら話し始めた。
「わしは若いころ、この線路の保線をしていたんだ。昔は、列車が
ひっきりなしに走っていたから、それは大変な仕事だった。でも、
毎日、楽しく仕事をしていた。ところが、この駅で止まるはずの
列車が、止まり切れなかったことがあってな。乗客には何も
なかったんだが、運転士は、線路がすり減っていたから止まれ
なかったと言うんだ。わしは、すぐに線路を点検したよ。
運転士の言った通りだった。それからは、いくら点検しても
不安でな、こうして見ているんだよ」
「でも、もう列車、走っていないよ」
「本物はな」
おじいさんはそう言うと、長椅子から立ち上がって、自分の家へ歩き始めた。
それから、私の列車ごっこが始まった。
ただ、線路の跡を歩いて、おじいさんと話をして、実家に向かうだけの
遊びだったが。
しばらくして、そのおじいさんが長椅子に来ることは無くなった。
目の前に広がる緑の田んぼ。
しおからとんぼも、長椅子で休んでいる。
夕暮れが田んぼをだいだい色に染め始めた。
私は、長椅子の上に、バッグから取り出したお菓子を一つ置いて、
実家へ向かって歩き始めた。
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