よみました
わたしの読んだものがたりの感想です

「夢の果て(瑞雲舎)」
安房 直子/文・味戸 ケイコ/絵


 これは復刊された瑞雲舎の「夢の果て」という題名の
短編集で、全部で17話収録されています。
 味戸ケイコさんの絵は、相変わらず安房さんの作風に良く
合っていますが、ときどきぞくぞくするほど見事な絵が
出てきて、絵だけでも見る価値はあります。
 表題作は、あまりにも有名ですが読んだことの無い物語が
いくつかありました。

 「ほたる」
  寂寥感で満ち溢れている安房さんならではの物語です。
  手のかかる妹のかや子が東京に引っ越してしまったことを
  実感した一郎が、ぼんやりと駅に佇んでいる時の気持ちの
  描写は、押し寄せるような寂寥感で圧倒的なものがあります。
  トランクからほたるが出てきて、かや子を幻影のように
  見せるのですが、ここで物語をさらりと終わらせることで
  余計に寂しさを強調しています。

 「カーネーションの声」
  花の声について、細かな描写が見事な物語です。
  ただ、それだけではなく、この物語には、もしかして
  安房さんの自伝的な雰囲気があるのではないかと思います。
  物語そのものは、平坦な感じで、ほとんど感情を見せない
  無味な感じなのですが、それがかえって作者の気持ちを
  投影しているのではないかと思える、安房さんにしては
  異色の作品です。

 「ひぐれのひまわり」
  安房さんの物語の中でも異色中の異色と言っていいのでは
  ないかと思わせるほど、狂気を感じさせる物語です。
  ひまわりが少年に恋をするのですが、この少年が抱いている
  恋は、人間の恋の狂気を表現しています。
  安房さんの物語の中でも現実的で、殺傷事件も描いていますが
  これが恋の狂気だと言わんばかりの描き方で、現実の冷たさを
  ストレートに表現している佳作です。

 「青い貝」
  この物語も、安房さんの物語の中でも異色の物語です。
  戦時中を題材にしていること、死について直接触れていること、
  これも自伝的な要素を持っていること、安房さんの物語の中で
  こういうものもあるのかと驚きました。
  八重はミチルという外国人と仲良しなのですが、戦時中に逃げます。
  この時に、フレアースカートをミチルからもらうのですが、同時に
  八重は重大な秘密ももらうのです。
  どうしようもない八重は、最後に現実を知るのですが、あまりに
  表現が具体的なので、安房さんの戦争に対する考えが分かります。
  いかに現実の方が怖いかを良く表現している物語です。

 「奥さまの耳飾り」
  これは、安房さんの物語の中で、魔法の寂しさを見事に表現した、
  ある意味で童話そのものに対して何かを問いかけている物語です。
  小夜は、奥さまの無くした耳飾りを、見つけてしまうのですが、
  どうしても付けてみたくて、付けてしまいます。
  そこで初めて耳飾りが魔法の耳飾りだという事を知るのですが、
  小夜が身に付けたことで、幸せを実現するはずの魔法を消して
  しまったことを知り、寂しさで一杯になります。
  文中に出てくる「魔法というものは、悲しいものだ」と言う言葉は、
  読み手に、ずしりと応えます。
  魔法と幸せはイコールではないという安房さんの考えが根底に
  見える傑作です。

 「木の葉の魚」
  人間の強欲さをものの見事に表現した物語です。
  最初は欲とは無縁のアイが、結婚した姑と夫にだんだんと
  影響を受けて、普通の(?)強欲な人に変わる様子は、
  ある意味で、安房さんが何かに警告しているような感じで
  強いメッセージ性のある物語です。

 「ある雪の夜のはなし」
  安房さんがストレートに描いた、恋の物語です。
  ぽとりと木から落ちてしまったりんごが、たぶん女の子で
  星に食べてくれとお願いすると、星が男の子になって
  きちんとりんごを食べて、その後で星になりたいと願う
  りんごの願いを聞き入れます。
  物語自体が甘い感じで、とても驚かされました。
  男の子がりんごの皮をむく味戸さんの絵は、とてもきれいです。

 「月の光」
  夢の果ても好きですが、この本の中では好きな物語です。
  安房さんの描写もさることながら、味戸さんの絵がおそろしく
  きれいで、物語をさらに切なく、それでいて寂しげな感じを
  見せつけています。
  病室に閉じ込められている少女にリリヤンが届いてから、
  月の光で少女はリリヤンを編み続けるのですが、編み上がると
  若者が病室の下にいて、少女は病室からリリヤンで脱出する、
  まるで駆け落ちのような物語です。
  この脱出シーンの味戸さんの絵は、見事としか言いようが
  ないほど、本当にきれいです。
  安房さんの恋の物語にしては、かなり大胆な感じのする、
  それでいてどこかうれしさと寂しさの混じった、不思議な
  雰囲気を持っている傑作です。
 


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