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「きつねの窓(ポプラポケット文庫)」
安房 直子/文・吉田 尚令/絵
これは復刊されたポプラポケット文庫の「きつねの窓」という
題名の短編集で、全部で10話収録されています。
表題作は、あまりにも有名ですが読んだことの無い物語が
いくつかありました。
「誰も知らない時間」
なんとも言いようのない、心優しい亀の物語です。
時間の長さと、その使い道、ほんとうにすてきな時間の
使い方は何かを問いかけてくるような感じです。
朝まで踊った後にふたりが見た亀の表情は、どんな
感じだったのかを描いていないあたり、強い寂しさを
表現していると思います。
「緑のスキップ」
全体を通してこの本には少女が出てきて重要な役割を
果たしますが、これも例外ではありません。
桜の花のかげにひそかに恋したみみずくが、季節の
移り変わりと対峙する、設定としては大きいのですが、
物語としては、とても繊細な雰囲気を持った不思議な
感じを抱かせてくれます。
「夕日の国」
もしかするとどこかで読んだかなあと思えるほど、安房さんの
作風が思う存分堪能できる物語です。
縄跳びを題材にして、小さなショーウインドウの飾り付けを
少年に任せるあたりは時代を感じさせます。
夕日の国から来たと思われる少女が消える描写の部分は、
見事なまでにあっさりと描いていて、夕日の色を強く残している
感じがしました。
「海の雪」
この物語は、この本の中でいちばん好きです。
なんてことはない雪の降る海沿いが舞台で、母を捜しに来た
少年と、傘を差してくれた少女の物語なのですが、強烈な印象を
持ちました。
幻想的で、それでいて全体に流れる寂寥感が、短い文章の中に
見事に描かれている傑作です。
「もぐらのほった深い井戸」
これは何とも現実的な物語です。
もぐらを通して、人間の欲深さを見事に表現しています。
文中に出てくる「悲しいことに」と言う言葉は、読み手に
ずしりと応えます。
それとなく安房さんの考えが根底に見える物語です。
「サリーさんの手」
これまた何とも現実的な話ですが、ほんのりと暖かい物語です。
おもちゃ工場で人形の手ばかり作っている少女が夜中に走る
電車で見たサリーちゃんの表現が華やかです。
この物語には、めずらしく安房さんの考え方がはっきりと描いて
あって、ある意味では変わった物語です。
「鳥」
安房さんにしては、これまためずらしい、恋の物語です。
駆け落ちしようとして失敗した少女は、少年の「秘密」を
耳に入れられてしまって診療所に行くのですが、ここで
語られる少年と少女の恋物語は、想像ですが安房さんの
理想のような気がします。
最後に少女の「秘密」が分かったあたりの表現は、安房さんの
照れ隠しのような感じを受けました。
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