「空白の監視日記」



  「えっ、わたしがですか?」
  「だって、これからあっちこっち行かなきゃならないし、それに当直でないの、
    あなただけだから・・・」
  「でも・・・」
  「終わったら、ごちそうでもするから、ね、お願い」
  「わかりました、上官命令にされちゃ、たまりませんから」
  「ありがとう、はい、部屋の鍵と、こっちが日誌ね、じゃあ、あとはよろしく」
  娘に鍵と日誌を渡すと、作戦部の女は、書類のどっさり入っているバッグを持って、
基地を後にしました。
  ぱらぱらと日誌に目を通す娘。
  「意外とこまめに書かないといけないのね」

  「こんばんは」
  「あ、こんばんは、めずらしいですね」
  「ちょっと仕事を頼まれちゃって・・・」
  娘は、何事も無いかのように、女のマンションを訪ねました。
  出迎えた少年は、ドアを閉めると、足早に自分の部屋へと戻っていきました。
  娘も、足早に女の部屋に入ると、ドアに鍵をかけました。
  「ふう、さてと、監視方法は・・・」
  女から聞いた方法で、監視システムを作動させると、パソコン上には、全部の
部屋の光景が映し出されています。
  「これはすごい、さすが作戦部ね」
  娘が感心している間もなく、部屋をノックする音が聞こえてきました。
  「食事、いらないの?」
  監視されるために、マンションに呼び出された、ドイツからやってきた少女の声。
  娘は、パソコンにロックをかけ、部屋の鍵を閉めました。

  「なんか、レトルトばっかりね、いつもこうなの?」
  「冷蔵庫の中は、ビールばっかりで、これくらいしかないの」
  少女は、不満そうに食事をしています。
  少年はと言うと、黙々と食事をしています。
  と、その姿を見て少女は言います。
  「あんた、よく食べられるわね」
  「もう慣れたよ」
  この調子だと日誌書くのが大変だなあと思いながら、娘は冷蔵庫を開けました。
  「ちょっと待ってね、なにか作ってみるから」
  そして、なんとか料理できそうなものを見つけると、キッチンへと向かいました。
  で、10分後、簡単ながらも料理したものを、テーブルの上に並べました。
  「これでよかったら、どうぞ」
  「わあー、おいしそう」
  少女は、娘の料理を食べ始めました。
  が、少年は、食事を終えたのでしょうか、
  「ごちそうさま」
というと、さっさと自分の部屋に帰ってしまいました。
  娘は、少し寂しい気持ちになりましたが、気を取り直して、食べはじめました。

  少女と娘は食事中も、後片付けのときも、いろんな話をしました。
  報告書だけでは分からない、少女の意外な一面も分かったりもしました。
  ふと娘が時計に目をやると、夜も遅くなっています。
  「もう眠らないと・・・おやすみなさい」
  少女は、ちょっと寂しそうな表情を浮かべながら、それでもにこっと笑いながら
言いました。
  「・・・おやすみなさい」

  部屋に戻った娘は、パソコンのロックを解除して、監視システムを作動させました。
  「監視たって、もう眠っているんじゃあないかしら」
  そう思いながらモニタを見ていると、少年も少女も夜更かししています。
  参ったなあと思いながら、娘は監督日誌に記入し始めました。

  「ママ・・・ママ・・・」
  パソコンから声が聞こえてきます。
  娘は、どうしたのかしらと思い、モニタを見ると、少女がうなされているのに
気づきました。
  かわいそうに思えた娘は、監視システムを停止させて、女の部屋に鍵を
かけると、少女の部屋をノックしました。
  「だいじょうぶ?」
  すると、部屋のドアが、すーっと開いて、そこには涙ぐんでいる少女が立って
います。
  「ママ・・・ママ・・・」
  「どうしたの?」
  娘がやさしく聞くと、少女は、娘に抱きつくと、鳴咽を抑えながら泣き出して
しまったのです。
  少女を抱きかかえて、部屋に入ると、娘は部屋の鍵を閉めました。
  「寂しいのね、なんだかんだ言っても・・・」

  翌朝。
  少年と少女は、学校へ行く準備をしています。
  「さき、行ってもいいよ」
  少女は、少年に素っ気無く言いました。
  「だいじょうぶ?  学校、行けるの?」
  心配そうに言う娘。
  少女は、ちょっと下を向いて、はずかしそうに言いました。
  「うん、だいじょうぶ、行ってきます」

  誰もいない部屋で、娘は頭を悩ませていました。
  「困ったわ、この時間の監視日記、書けないわ・・・昨夜のことなんて」

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