「つ、つわり!?」
「おかしいわ・・・」
娘は、あることにすごく気を取られていました。
心配で仕方ないといった方がいいかもしれません。
仕事をしている最中も、うわのそらになってしまって、おこられることもしばしば
でした。
「ちょっといいかしら?」
白衣の博士が、娘に声をかけてきました。
娘の担当している仕事の遅れが、プロジェクト全体のスケジュールに影響を
出し始めたからです。
自分の研究室に娘を招き入れると、先輩は問い掛けました。
「なにか心配ごとでもあるの?」
その言葉に、娘は小さな声で答えました。
「・・・ないんです・・・」
「ないって、なにが?」
「・・・その、毎月あるものが・・・」
「まさか・・・」
先輩は、娘の肩をつかむと、厳しい表情で問いただしました。
「まさか、あなた・・・」
「・・・そんなことしていません、信じてください、ほんとうです・・・」
涙を流しながら、先輩にすがりつく娘。
その目は、澄みきっていて、とてもうそを言っているようには見えません。
「じゃあ、どうして・・・」
そう言いかけたとき、第1種警戒態勢の警報が鳴り響きました。
「とにかく、あとでじっくり聞くわ、持ち場に戻って!」
「は、はい」
先輩と娘は走り出しました。
慣れない屋外での作業。
思わぬ苦戦、そして暴走。
気持ち悪くなったのでしょうか、娘は思わず吐きそうになりました。
その姿を見ていた先輩は、背筋が寒くなりました。
「・・・信じられないけれど、まさか・・・」
次の日。
娘は先輩に連れられて、基地内部の病院に行きました。
診察を受ける娘。
廊下で蒼ざめながら待つ先輩。
やがて診察室から出てきた娘は、明るい表情で先輩に言いました。
「ごめんなさい、ただの疲労と飲みすぎでした」
先輩は、煙草に火をつけると、ふうっと大きく吸い込みました。
「良かったわね」
「あ、これから薬をもらってから仕事に戻りますから、わたしはここで・・・」
うれしそうな娘の後ろ姿を見ている先輩は、煙草を揉み消しました。
そして、まだ呆然としながら、手のひらを見つめると、ひと月ほど前のことを
思い出していました。
「・・・まさかあのせいで、現実になったのかと思ったわ・・・」
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