「浴衣のきみは・・・」
「あら? メールが届いているわ」
娘は、メールを開いてみました。
それは、白衣の博士からの、花火見物へのお誘いでした。
読んでいくうちに、だんだんとうれしくなった娘は、返事を打ちました。
「だいじょうぶです、行けます」
夕日の色も消えて、だんだんと紺色に染まり始めるころ。
仕事を終えた娘は、更衣室へと向かいました。
「あ、あった」
ロッカーの前に置かれた小さな紙袋を拾い上げると、娘は中身を取り出しました。
水色があざやかな、あさがお柄の白い浴衣。
娘は、時間を気にしつつ、浴衣に着替えると、ポーチを片手に演習場の森へと
向かいました。
「やっときたわね」
白衣の博士は、同じ柄の浴衣を着ていました。
「すみません、遅くなって」
だいぶ走ったせいでしょうか、息を切らしながら娘は答えました。
「花火、もう始まっちゃいましたか」
「そろそろよ」
「あ、浴衣、ありがとうございます。先輩とお揃いなんですね」
「ええ、わたしが仕立てたから」
「先輩が仕立てたのですか・・・さすがですね」
「気に入ってくれるといいんだけど・・・あれ? あなた、もしかして・・・」
「はい?」
「着物の着方を知らないのね」
「どっかおかしいですか?」
「ちょっといいかしら・・・」
そう言うなり、先輩は娘の手を引いて、木陰に入りました。
「せ、先輩・・・」
娘はなにか言おうとしましたが、ぴっちりと合わせた浴衣に滑り込んだ先輩の手は、
なにも言わせてくれませんでした。
大きな音を響かせながら、空いっぱいに広がる花火をぼんやり見ている娘の手から
ポーチが音も無く、草むらに落ちました。
「はい、これでだいじょうぶ」
「なんだか、はずかしいですね」
ちょっとふくらんだポーチを娘に渡しながら、先輩は言いました。
「そうかもね」
「でも、浴衣のときも下着つけちゃだめなのですか?」
「たぶんね、着物の一種だから・・・でも、楽でしょ?」
「はい、あ、花火ですよ、先輩」
ハンカチで汗を拭きながら、娘は空を見上げていました。
ショートカットページに戻ります
ホームページに戻ります