「わらうといいと思うわ」



  「なんか、熱っぽいなあ」
  娘は、ぼーっとした顔で、端末を操作していました。
  でも、普段よりはキーをたたく速さは落ちています。
  「このままだと残業になってしまう・・・」
  気分転換でもしようと、娘はふらふらと休憩室の方へと歩いていきました。

  「うわー、気持ちいいー」
  自動販売機で買った冷えたジュースの缶を、おでこにあてていました。
  そこに、学校からまっすぐ来たのでしょうか、水色の髪をした少女が制服姿で
休憩室にやってきました。
  「あら、きょうは早いのね」
  「司令に言われたので」
  少女は、さらりと答えると、休憩室にあるソファに座って、本を読み始めました。
  ジュースを飲み終えると、娘も少し座りたくなりました。
  「ちょっとわたしも・・・」
  娘は、熱のせいか、少女に寄りかかるようにして、ソファに座りました。
  「どうしたの?」
  「ちょっと熱っぽくてね、でもだいじょうぶだから」
  「そう・・・」
  少女がそう言って、本を読もうとしたとき、司令が休憩室に現れました。
  「すみません、少し休んでいます」
  娘は、立ち上がると、ぼーっとしながらも司令に言いました。
  司令は、少女に一冊の本を渡すと言いました。
  「このとおりにしなさい」
  「はい」
  司令が立ち去った後、少女は受け取った本を読み始めました。
  娘が、ソファに再び腰を下ろすと、少女は、娘のおでこに手を当てました。
  「どうしたの?」
  「本に書いてあるのと同じ・・・熱があるのね・・・」

  病院の一室まで連れてこられて、娘は少女に言いました。
  「おおげさね、熱っぽいけど、だいじょうぶよ」
  「だめ、こんなときは・・・なるほど・・・」
  病室の戸を閉めて、カギをかけると少女は言いました。
  「風邪のときは、あったかくして、静かにしていないと」
  「でも、お仕事が・・・」
  もうろうとした娘の目に、やさしそうな少女の顔が映りました。

  「うーん、よく眠った」
  娘は、気分よく起き上がりました。
  「熱も引いたみたいね」
  「よくなりましたか?」
  ふと見ると、少女がタオルと洗面器を持って立っています。
  娘は、おでこから落ちたタオルと、少女が持っているタオルを見比べました。
  「ええ、ありがとう」
  少女は、困ったような顔をして言いました。
  「こんなとき、どうしていいか、分からなくて・・・」
  娘は、にこっと微笑みながら言いました。
  「わらうといいと思うわ」
  その言葉に、少女もにこっと微笑みました。

  着ているもの全てが変わっていることに娘が気づいたのは、それから数分後のこと
でした。

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