「瞬間、心、預けて」



  「じょうだんじゃあ、ないわ」
  レオタード姿の少女は、司令の息子に、あれこれ言われて、かりかりしていました。
  環境も変わって、さあこれからというときに、どうにもうまくいかないもどかしさも
手伝って、少女の気持ちは収まりません。
  基地の中を、どこへともなく歩いている少女の姿を見掛けた娘は、声をかけました。
  「あら?  いま休憩中なの?」
  「そんなところね、気分転換てとこかしら」
  少女は、娘と目を合わせないように、空を眺めるようにして言いました。
  そして、視線を落として歩き去ろうとしています。
  「元気ないみたいね、どうしたの?」
  娘は、少女の手をつかんで、やさしく問い掛けました。
  「なんでもないってば」
  伏し目がちに答える少女。
  娘は、握っている少女の手が、小さく震えているのに気づきました。
  「ねえ、よかったらちょっと休憩しない?」
  「いいわよ、もう戻らなくちゃいけないから・・・」
  そう言いながらも、少女は娘の手を振り解こうとはしません。
  娘は、少女に語り掛けるように、ドイツ語で言いました。
  「言いたいことあったら、聞くぐらいはできるから、ね」
  少女は、久々に聞くドイツ語に、気を許したのか、娘の後を歩いていきました。

  夕暮れの訓練場。
  誰もいない、ひっそりとした野原で、娘と少女は座っていました。
  「ここだったら、誰もいないから、だいじょうぶよ」
  やさしくドイツ語で話し掛ける娘。
  少女は、娘のやさしさに心を許したのか、きゅうに泣き出しました。
  「素直になっていいのよ」
  娘は、泣きじゃくる少女を包み込むように抱きしめました。
  少女は、まるでだだっこのように、いろんなことを言っています。
  まるでママに甘えているかのようです。
  「いいわよ、思いっきり甘えて・・・なにもかも忘れるくらい・・・」
  やがて、娘を抱きしめる少女の手から、だんだんと力が抜けていきました。

  「きょうのことは、内緒にしてくれない?」
  もう暗くなりかけている訓練場で、少女は照れたように言いました。
  にこっと笑いながら娘は答えました。
  「いいわよ、ふたりだけの秘密ね」

  「じゃあ、訓練に戻るね」
  うれしそうに手を振って走り去る少女の姿を見ながら、娘はぽつりと言いました。
  「これで、あの作戦がうまくいくといいけれど・・・」

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