「ジャージを着ていたら・・・」
「しまった、お洗濯するのを忘れちゃった」
あまりの忙しさで、散らかり放題の部屋の中を見回しながら、娘はため息を
つきました。
「仕方ないわ、学校に行っていたころのジャージでも着ようかしら」
ごそごそと、ワードローブの中を探していると、数年前に着ていたジャージが
出てきました。
「まだ着られるかしら?」
不安そうに袖を通してみると、なんとか着られるので、娘は着替えました。
「なにか食べ物でも買ってこようかしら」
娘は、ジャージ姿で街に出かけました。
のんびりと商店街への道を娘が歩いていると、スーパーの袋を提げた少女が
いきなり後ろから抱き付いてきました。
「きゃああ」
娘は、びっくりして叫んでしまいました。
抱き付いた少女の方は、まっさおな顔をして、うつむいていました。
「あの、ごめんなさい、人違いしちゃって・・・」
「人違いって?」
すまなそうにしている少女に、娘はやさしくたずねました。
少女は、言っていいのかどうしようか、悩んでいました。
(でも、ご迷惑かけちゃったし・・・)
「よかったら、うちに来ませんか?」
「・・・あなたのおうちに?」
「はい、ちゃんとわけをお話しますから」
「いいわ」
少女と娘は、黙って歩き出しました。
少女の家に着くと、娘は言いました。
「どういうわけなのか、お話してくれない?」
「はい・・・」
ぽつりぽつりと少女は話しはじめました。
その内容を聞いているうちに、娘は、なるほどと思いました。
(フォースチルドレンのことね・・・)
少女は、話しながらだんだんと申しわけなさそうな表情になっています。
「ごめんなさい」
「もういいわ・・・でも、あなたも、あわてんぼさんね、ジャージ見て勘違い
するなんて」
努めて明るく、娘は少女に言いました。
「さては、そのジャージの子のこと・・・」
「・・・はい」
少女は、まっかになってうなずきました。
「告白したの?」
「・・・ちゃんと言えなくて・・・」
「分かるわ、その気持ち・・・」
娘は、少女にやさしく言いました。
すると、少女は娘に甘えるように寄りそうと、小さな声でささやきました。
「ジャージ、苦しくないですか?」
「えっ・・・」
夕日もほとんど沈んで、暗くなりかけた部屋の中で、少女は全ての想いを娘に
ぶつけていました。
「あら、きょうはお弁当なのね」
「ええ」
先輩の一言に、娘は、さりげなく返事しました。
かばんの中にある、洗濯されたジャージを隠しながら・・・
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