「止まった時間−Makoto in Kanon」
街を一望できる丘。
鈴の音とともに、止まった時間。
でも、かけがえのない気持ちは、消えることはない。
どんなに季節が流れても・・・。
どんよりとした雲が空を覆っている、冬のある日。
「お先に失礼します」
そう言って、若者は、鞄を抱えて、タイムカードを押した。
「珍しいこともあるもんだな」
「ああ、残業ばかりしていたのにな」
同僚の言葉をよそに、若者は、駅前にある会社を後にした。
高校を卒業して、若者は、駅前のビルにある会社に就職した。
同級生の従姉妹は、進学して、街を離れた。
だけど、若者は街を離れたくなかった。
夕暮れの商店街を歩きながら、若者は、いろいろと買い物をした。
大きな袋を持ちながら、歩いていると、白いものが舞い下りてきた。
「降り出したか・・・」
若者は、空を見上げながら、想いをめぐらせていた。
誰もが持っている、大切な場所。
忘れることのない気持ち。
変わることのない願い。
森を抜けて、開けた丘に着くと、若者は、座った。
街は、薄暮の中に、ぼんやりと浮かび上がっているようだった。
鞄から、鈴と、少し汚れた白いヴェールを取り出して、横に置いた。
そして、袋から取り出した肉まんを食べながら、つぶやくように言った。
「・・・二年目の記念日だよ・・・」
ふと見ると、横に置いたはずのヴェールが、目の前にある。
「おかしいなあ、風は吹いていないのに」
若者は、ヴェールに手を伸ばそうとした。
思わず、若者は叫んだ。
「う、動いている」
ヴェールは、まるで生き物のように動いている。
ちょっとためらったが、若者は、ヴェールを、そっと持ち上げた。
ぴょこんと出てきた、ちいさな狐の顔。
じっと「幼狐」は、若者の顔を見ている。
「肉まんでも食うか?」
肉まんを差し出そうとした若者は、驚いた。
「あうー」
狐とは思えない鳴き声。
若者は、肉まんを食べている子狐の頭を撫でながら、遠い空を見ていた。
止まった時間を動かすのは、信じる想い。
どんな思い出も、忘れずに背負っていく強さ。
降り続く雪の中。
子狐が動き回るたびに、付けた鈴は、ちりんちりんと鳴っている。
若者は、鈴の音を聞きながら、丘の上に寝転がっていた。
鮮やかによみがえった、かけがえのない気持ちを思い出しながら・・・。
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